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BtoBマーケティング論考

GTM戦略(Go-To-Market)とは?BtoBの立て方7ステップ・フレームワーク・テンプレート

GTM戦略(Go-to-Market戦略)とは、製品やサービスを「誰に」「どんな価値として」「どの経路で」「いくらで」届けて売上にするかを決める計画です。新製品を出すとき、既存の製品で新しい業種や地域に売り始めるとき、売り切りからサブスクリプションへ変えるときなど、売り方の前提が変わるたびに作ります。

BtoBでは、1つの購買に利用部門の担当者、部門長、決裁者、情シス、購買部門など何人もが関わります。営業に会う前に、比較検討の多くが進んでいることも珍しくありません。そのためBtoBのGTM戦略では誰に売るかを決めるだけでは足りず、相手の社内で誰が何を比べ、どう稟議を通すのかまで考えておく必要があります。

この記事は2026年1月に公開した記事を2026年10月17日に全面的に書き直したものです。BtoBのマーケティング担当者や事業責任者に向けて、GTM戦略の意味、マーケティング戦略との違い、主なフレームワーク、立て方の7ステップ、1枚にまとめるテンプレート、中小企業での進め方、KPI、よくある失敗をまとめました。すぐに作り始めたい方は「GTM戦略の立て方7ステップ」と「GTM戦略のテンプレート」から読んでください。

先に結論をまとめておきます。

  • GTM戦略は「誰に・何を価値として・どの経路で・いくらで売り、何で成果を測るか」を1つにまとめた計画。製品の発売や新しい市場への参入のたびに作る
  • マーケティング戦略や営業戦略より範囲が広く、価格、販売チャネル、営業体制、受注後の定着までを含む
  • BtoBでは購買に関わる人たち(購買グループ)と、比較検討・稟議・情シスによる評価の流れを先に書き出す。ここを飛ばすと、担当者が乗り気でも相手の社内で話が止まる
  • 立て方は「目的と範囲 → 対象市場とICP → 購買グループと購買プロセス → 価値提案 → 価格 → チャネルと販売モデル → KPIと検証計画」の7ステップ
  • フレームワークは全部使わなくてよく、まずTAM・SAM・SOM、ICP、GTMモーション(営業主導・プロダクト主導など)、販売モデルの4つを押さえる
  • 中小企業や少人数のチームは、1つの業種と1つの課題に絞り、チャネルも1〜2本にして90日ほどで検証する
  • 作って終わりにせず、狙った企業がサイトを訪れているか、商談化率や受注率が仮説どおりかを見て、四半期ごとに直す

この記事でわかること

  • GTM戦略の意味と、マーケティング戦略・営業戦略との違い
  • BtoBでGTM戦略が重要な理由
  • GTM戦略で使う主なフレームワークと、それぞれの使いどころ
  • GTM戦略の立て方7ステップと、各ステップで作る成果物
  • 1枚にまとめるGTM戦略のテンプレートと記入例
  • 中小企業・少人数チームでの進め方
  • 海外のBtoB企業の事例、KPI、よくある失敗
  • 策定を外部に支援してもらうときの選び方

GTM戦略とは

GTM戦略の意味

GTMは「Go-to-Market」の略で、製品を市場に出すことを指します。GTM戦略は製品を市場に出して顧客に買ってもらうまでの道筋を決めた計画です。

米Salesforceは自社のブログで、GTM戦略を「新しい製品を買い手に届けるための段階的な計画」と説明しています。IT用語を解説する米TechTargetも、新しい製品やサービスを、狙う顧客に届けながら市場に出す方法を定めた行動計画としています。

一言でいえば、GTM戦略で決めるのは次の5つです。

  1. 誰に売るか(対象市場と理想の顧客像)
  2. 何を価値として伝えるか(価値提案とメッセージ)
  3. どの経路で届けるか(販売チャネルと販売モデル)
  4. いくらで売るか(価格とプラン)
  5. 何で成果を測るか(KPIと検証の計画)
GTM戦略で決める5つの要素 GTM戦略は1つの製品を1つの市場に出すための計画で、5つのことを決める。1は誰に(対象市場と理想の顧客像ICP)、2は何を価値として(価値提案とメッセージ)、3はどの経路で(販売チャネルと販売モデル)、4はいくらで(価格とプラン)、5は何で測るか(KPIと検証の計画)。 GTM戦略 1つの製品を1つの市場に出して売上にする計画 1 誰に 対象市場と理想の顧客像(ICP) 2 何を価値として 価値提案とメッセージ 3 どの経路で 販売チャネルと販売モデル 4 いくらで 価格とプラン 5 何で測るか KPIと検証の計画
図1 GTM戦略で決める5つの要素(当社作成)

マーケティング戦略・営業戦略・事業戦略との違い

GTM戦略は事業戦略で決めた方向を「1つの製品を1つの市場に出す」単位に落とし込んだものです。マーケティング戦略、営業戦略、カスタマーサクセスの計画は、GTM戦略で決めた前提にそって作ります。

  事業戦略 GTM戦略 マーケティング戦略 営業戦略
答える問い どの事業・市場で勝つか 製品をどう市場に出して売上にするか どう知ってもらい、比較で選ばれるか どう商談を進めて受注するか
範囲 会社・事業全体 1つの製品 × 1つの市場 認知からリードの獲得・育成まで 商談から受注まで
主に決めること 参入する市場、投資の配分 ICP、価値提案、価格、チャネル、販売モデル、KPI メッセージ、施策、予算 営業プロセス、体制、目標
見直す時期 中期経営計画など 発売・参入のたび。立ち上げ期は四半期ごと 年度・四半期 年度・四半期

BtoBでは、マーケティングと営業で「狙う企業」の定義が食い違うことがよくあります。GTM戦略を1枚にまとめておくと、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが同じ前提で動けます。

「GTM」という言葉の使われ方

GTMは戦略以外の言葉とも組み合わせて使われます。

  • GTMチーム、GTM組織:マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスなど、売上をつくる部門をまとめた呼び方
  • GTMプラン:GTM戦略を、施策とスケジュールに落とした実行計画
  • GTMエンジニア:AIや自動化の道具を使って、見込み客のリスト作りやアプローチの仕組みを組み立てる職種。米国の営業データツールの会社Clayが、2023年に作った職種だとしている

なお、Webサイトの計測の文脈で「GTM」と書かれている場合は、Googleのタグ管理ツール「Googleタグマネージャー(Google Tag Manager)」を指していることが多く、この記事のGTMとは別物です。

GTM戦略が必要になる場面

  • 新製品・新サービスを出す
  • 既存の製品で、新しい業種・企業規模・地域に売り始める(アンゾフの成長マトリクスでいう「新市場開拓」)
  • 売り方を変える(売り切りからサブスクリプションへ、直販から代理店経由へ、営業主導から無料トライアル起点へ)
  • 海外の製品を日本で売る、日本の製品を海外で売る
  • 顧客の比べ方が変わった(生成AIで比較候補を探す人が増えた、など。くわしくは「BtoBマーケティングの今後の展望」)

BtoBでGTM戦略が重要な理由

購買に関わる人が多い

米Forresterが2026年1月に公表した調査では、典型的な購買の意思決定に、社内の13人と社外の9人が関わっていました。日本でも、HubSpot Japanが2026年6月に従業員50人以上の企業の1,573人に聞いた調査で、情報収集・比較・稟議・承認・決裁に関わった社内の人が5人以上いたケースは46.9%でした。ワンマーケティングの「BtoB購買プロセス白書2025」では、平均の関与人数が300万円未満の取引で5.6人、中価格帯で14.4人、高価格帯で18.3人と、取引額が大きいほど増えています。

BtoBでは、利用部門の担当者が製品を気に入っても、部門長、決裁者、情シス、購買・法務がそれぞれの観点で確認します。誰か1人の懸念が解けないだけで、検討は止まります。こうした購買に関わる人たちの集まりをDMU(意思決定単位)や購買グループと呼びます。くわしくは「DMU(意思決定単位)とは?社内検討を勝ち抜くBtoBコンテンツ戦略」で解説しています。

営業に会う前に比較が進む

Gartnerが2025年8〜9月にBtoBの買い手646人に聞いた調査では、67%が営業担当者を介さない購買を望み、45%が直近の購買でAIを使っていました。HubSpot Japanの調査でも、売り手に接触した時点で、複数の候補をリストアップする段階まで検討が進んでいた買い手が63.5%いました。米G2が2026年3月にBtoBのソフトウェアの買い手1,076人に聞いた調査では、51%がGoogleより生成AIのチャットで調べ始めることが多いと答えています(2025年の報告では29%)。

営業に会う前に読まれる情報、たとえば製品サイト、比較表、料金、導入事例、セキュリティの資料、第三者のレビューも、GTM戦略で準備しておくべきものです。購買のプロセスが一直線に進まないことは、「Messy Middle時代のBtoBマーケティング」でも取り上げています。

日本のBtoBには稟議と情シスの評価がある

日本の企業では、導入を決める前に稟議を通すのが一般的です。稟議書には導入の目的、費用、期待できる効果、比較した他の製品、リスクへの対策などを書きます。HubSpot Japanの調査では、検討の開始から決定までに1か月以上かかったケースが50.9%、2社以上を比べたケースが80.3%でした。ネオマーケティングが2026年にBtoB企業の540人に聞いた調査では、直近の稟議で差し戻しを経験した人が57.2%、過去1年に稟議が通らず導入を断念した経験がある人が57.8%いました。

クラウドサービスなら、情シスがセキュリティチェックシートで確認することも多いでしょう。アシュアードが2023年に従業員1,000人以上の企業の情シス担当者300人に聞いた調査では、セキュリティチェックシートを使う企業の84.3%が課題を感じていました。

そのため日本のBtoBでは、担当者が稟議書を書くための材料と、情シスが評価するための資料を、売る側が先に用意できるかどうかで、検討の速さが変わります。GTM戦略の段階で「誰に、どの資料を渡すか」まで決めておくのはそのためです。

GTM戦略の主なフレームワーク

GTM戦略で使うフレームワークはたくさんありますが、全部を使う必要はありません。決めたいことに合わせて選びます。

フレームワーク 決めること BtoBでの使いどころ
TAM・SAM・SOM 市場の大きさと、現実に取れる範囲 投資の判断や稟議で、市場規模を説明するとき
ICP(理想の顧客像) 狙う企業の条件 ターゲットリストやABMの対象を決めるとき
バイヤーペルソナ・JTBD 購買に関わる人の課題と、片付けたい用事 役割ごとのメッセージを作るとき
STP 市場の切り方と自社の立ち位置 競合との違いを1文で言えるようにするとき
4P 製品・価格・流通・販促 価格とチャネルを決めるとき
GTMモーション 顧客が買うまでの主な動き方 営業主導か、プロダクト主導かを決めるとき
販売モデル 顧客1社あたりにかける営業の手間 営業体制と採用の計画を立てるとき
ボウタイモデル 受注後の定着と拡大までの流れ サブスクリプションの製品で、受注後のKPIまで設計するとき

ここでは、BtoBのGTM戦略で特に大事なGTMモーションと販売モデルを説明します。TAM・SAM・SOMとICPは、立て方のステップ2で扱います。JTBDの使い方は「Jobs to be Done(JTBD・ジョブ理論)とは?BtoBでの使い方と事例」をご覧ください。

営業主導・プロダクト主導・マーケティング主導・パートナー主導のGTMモーション

GTMモーションは、顧客が製品を知ってから買うまでの主な動き方です。

GTMモーション 進み方 向いている製品 日本のBtoBで気をつけること
営業主導(SLG:Sales-Led Growth) 営業が商談を進め、提案と交渉で受注する 単価が高い、導入に社内調整や設定が必要 稟議と情シスの評価を、営業が資料で支える
プロダクト主導(PLG:Product-Led Growth) 無料版やトライアルで使ってもらい、使った体験で有料化や利用拡大につなげる 単価が低め、使えばすぐ価値がわかる、利用者が自分で始められる 情シスの許可なくSaaSを使えない企業では、無料版を試すこと自体が止まる。情シス向けの資料を別に用意する
マーケティング主導(MLG:Marketing-Led Growth) 記事・ウェビナー・広告などで見込み客を集め、育てて商談にする 中程度の単価で、検討期間が長い 情報収集の段階で、比較表や事例を読めるようにしておく
パートナー主導 代理店、SIer、販売パートナーを通じて売る 大企業向け、地方や特定業種に強い販路が要る パートナーの営業が説明できる資料と、パートナー側の利益を設計する

プロダクト主導(PLG)という言葉は、米国のベンチャーキャピタルOpenViewが2016年に作ったものです。

1つに決める必要はありません。中小企業にはプロダクト主導、大企業には営業主導というように、顧客の規模で組み合わせることもよくあります。

顧客単価と顧客数で選ぶ販売モデル

販売モデルは顧客1社あたりにどれだけ人の手をかけるかの型です。顧客1社あたりの年間の取引額が大きく、顧客数が少ないほど、人が深く関わるモデルが合います。

顧客単価と顧客数で選ぶ販売モデル 縦軸は顧客1社あたりの年間取引額で上ほど大きい。横軸は顧客の数で右ほど多い。左上のハイタッチは取引額が大きく社数が少ない大企業向けで、フィールドセールスが提案から導入まで伴走する。中央のロータッチは中堅企業向けで、インサイドセールスがオンライン商談で進める。右下のテックタッチ(セルフサーブ)は取引額が小さく社数が多い中小企業向けで、申し込み、トライアル、ヘルプで人が関わらずに進む。 取引額 大きい 小さい 少ない 顧客数 多い ハイタッチ 大企業向け フィールドセールスが伴走 ロータッチ 中堅企業向け インサイドセールス中心 テックタッチ 中小企業向け 申し込みとトライアル
図2 顧客単価と顧客数で選ぶ販売モデル(当社作成)
販売モデル 進め方 合う顧客
ハイタッチ フィールドセールスが訪問やオンラインで何度も提案し、導入まで伴走する 取引額が大きく、社数が少ない大企業
ロータッチ インサイドセールスがオンライン商談を中心に進め、標準的な提案で受注する 取引額が中程度の中堅企業
テックタッチ(セルフサーブ) サイト上の申し込み、トライアル、オンラインの説明会やヘルプで、人が関わらずに進む 取引額が小さく、社数が多い中小企業

顧客1社の獲得にかけられる費用の上限は、取引額で決まります。たとえば年間の取引額が数十万円の製品で、毎回訪問して提案していては採算が合いません。

GTM戦略の立て方7ステップ

ここからは、GTM戦略を実際に立てる手順です。各ステップで決めることと、作っておく成果物を示します。

GTM戦略の立て方7ステップと成果物 ステップ1は目的と範囲を決めるで、成果物は目的と範囲の1枚。ステップ2は対象市場とICPを決めるで、成果物はICP定義・ターゲットリスト。ステップ3は購買グループと購買プロセスを書き出すで、成果物は役割と資料の対応表。ステップ4は価値提案とメッセージを決めるで、成果物はメッセージング表・比較表。ステップ5は価格とプランを決めるで、成果物は価格表。ステップ6はチャネルと販売モデルを決めるで、成果物はチャネル計画・リードの定義。ステップ7はKPIと検証の計画を決めるで、成果物はKPI一覧・判断基準。 ステップ 成果物 1 目的と範囲を決める 目的と範囲の1枚 2 対象市場とICPを決める ICP定義・ターゲットリスト 3 購買グループと購買プロセスを書き出す 役割と資料の対応表 4 価値提案とメッセージを決める メッセージング表・比較表 5 価格とプランを決める 価格表 6 チャネルと販売モデルを決める チャネル計画・リードの定義 7 KPIと検証の計画を決める KPI一覧・判断基準
図3 GTM戦略の立て方7ステップと成果物(当社作成)

ステップ1:目的と範囲を決める

最初に、どの製品を、どの市場に、いつまでに、どれだけ売るのかを決めます。

  • 製品:どの製品・プランを売るか
  • 市場:業種、企業規模、地域
  • 期間:いつまでに
  • 目標:売上、受注社数、商談数など

例:「中堅の製造業向けに見積管理のクラウドサービスを出し、2027年3月までに20社と契約する」

複数の市場を1つのGTM戦略にまとめると、メッセージもチャネルもぼやけます。市場が違えば、GTM戦略も分けて作ります。

成果物:目的と範囲を書いた1枚の文書

ステップ2:対象市場とICPを決める

対象市場の大きさはTAM・SAM・SOMの3段階で確かめます。

  • TAM(Total Addressable Market):製品が理論上取りうる市場全体
  • SAM(Serviceable Available Market):TAMのうち、自社の製品や販路で届けられる範囲
  • SOM(Serviceable Obtainable Market):SAMのうち、計画期間内に現実に取れる範囲

BtoBでは「対象となる企業数 × 導入する割合 × 1社あたりの年間取引額」で計算すると、前提を説明しやすくなります。企業数は総務省・経済産業省の「経済センサス」などの公的統計で確かめられます。

次に、ICP(Ideal Customer Profile、理想の顧客像)を決めます。ICPは「この条件の企業なら、価値を感じて買ってくれ、使い続けてくれる」という企業の条件です。

  • 業種と事業の内容
  • 従業員数や売上の規模
  • 地域や拠点の数
  • 使っているシステム(連携が必要なもの)
  • 組織の状態(担当の部署や専任者がいるか)
  • 課題が表に出るきっかけ(基幹システムの入れ替え、法改正、担当者の交代、拠点の新設など)

既存の顧客がいる場合は、受注までが早い、解約が少ない、取引額が大きいといった「うまくいった顧客」の共通点から作るのが確実です。あわせて、売らない相手(ICPから外れる企業)も書いておくと、営業が追うべきでない商談を早めに見切れます。

課題が表に出るきっかけは、購買を思い立つ場面と言い換えられます。この考え方は「CEPs(カテゴリーエントリーポイント)とは?」でも解説しています。

成果物:ICPの定義シート、優先順位をつけたターゲット企業のリスト

ステップ3:購買グループと購買プロセスを書き出す

ICPの企業の中で、誰が購買に関わり、どの順番で何を決めるのかを書き出します。BtoBのGTM戦略で最も手を抜きやすく、手を抜くと後で困るステップです。

役割 気にすること 売る側が用意するもの
利用部門の担当者 使いやすさ、今の業務がどれだけ楽になるか デモ、トライアル、操作の動画
部門長 部門の成果、導入の手間 導入事例、効果の試算
決裁者(役員など) 費用対効果、リスク、ほかの投資との比較 費用対効果の試算、稟議書に使える要約
情シス セキュリティ、既存システムとの連携、運用の負担 セキュリティチェックシートの回答、構成図、連携の仕様
購買・法務 価格、契約条件、取引先としての信用 見積書、利用規約、会社概要

購買プロセスはおおむね次のように進みます。

  1. 課題に気づく
  2. 情報を集める(検索、生成AI、同業者への相談、展示会)
  3. 比較候補を絞る
  4. 比較・評価する(デモ、トライアル、セキュリティの確認)
  5. 稟議を通す
  6. 契約する
  7. 導入して定着させる

段階ごとに「相手が何を探しているか」と「こちらが何を出すか」を並べておくと、後で施策を決めやすくなります。

成果物:購買グループの一覧、購買プロセスと各段階で渡す資料の表

ステップ4:価値提案とメッセージを決める

価値提案は次の型で1文にまとめると、関わる人で認識をそろえやすくなります。

〔ICP〕が抱える〔課題〕を、〔方法〕で解決し、〔成果〕をもたらす。〔代わりの手段〕と比べて〔違い〕がある。

代わりの手段には競合の製品だけでなく、Excelでの管理、手作業、外注、何もしないことも含めます。BtoBでは「今のやり方を続ける」が最大の競合になることが多いからです。

価値提案を決めたら、購買グループの役割ごとに言い換えます。担当者には「毎月の集計作業がなくなる」、決裁者には「年間の工数をこれだけ減らせて、何か月で費用を回収できる」と伝えるイメージです。主張には導入事例、数値、第三者の評価、デモなどの証拠をつけます。

比較表も自社で用意しておきます。比較検討の段階で、担当者が稟議書に貼れる形の比較表があると、そのまま使われることがあります。

成果物:メッセージング表(役割 × 課題 × メッセージ × 証拠)、比較表

ステップ5:価格とプランを決める

価格は売上だけでなく、どの販売モデルが成り立つかも左右します。

  • 課金の単位:ユーザー数、利用量、拠点数、定額
  • プランの分け方:機能、サポートの範囲、利用の上限
  • 初期費用や導入支援の費用を別にするか
  • 無料トライアルの有無と期間
  • 年額一括払いや請求書払いに対応するか

日本のBtoBでは相手の会社の決裁権限の金額も意識します。年間の費用が部門長の決裁で収まるか、役員の決裁が必要になるかで、稟議にかかる時間が変わるからです。最初は小さく始められるプランを用意し、使ってもらってから広げる設計も考えられます。

成果物:価格表、プランごとの想定顧客

ステップ6:チャネルと販売モデルを決める

どの経路で顧客と出会い、誰が商談を進めるかを決めます。

  • 販売チャネル:直販、代理店・販売パートナー、マーケットプレイス、オンラインでの申し込み
  • 見込み客と出会う手段:検索で読まれる記事、広告、ウェビナー、展示会、紙のDMやフォーム営業などのアウトバウンド、紹介、ABM(狙う企業を決めてアプローチする方法)
  • GTMモーションと販売モデル:前の章の表から選ぶ
  • 部門間の受け渡し:マーケティングからインサイドセールス、インサイドセールスからフィールドセールスへ渡す条件(MQL、SQLの定義)

部門間の受け渡しの条件は「BtoBマーケティングファネルとは?」でくわしく解説しています。

成果物:チャネルの計画、部門ごとの役割分担、リードの定義

ステップ7:KPIと検証の計画を決める

最後に、GTM戦略がうまくいっているかを何で判断するかを決めます。立ち上げの初期は、受注や売上といった結果の数字が出るまでに時間がかかります。そのため、商談化率や狙った企業のサイト訪問数など、先に動く数字(先行指標)で仮説を確かめます。

  • 先行指標と結果の指標を分けて決める
  • 仮説ごとに「何がどうなれば正しかったと判断するか」を決める(例:ICPに合う企業の商談化率が、ICP外より高いか)
  • 90日ごとに振り返る日を決める
  • 方針を変える基準、撤退する基準を決める

成果物:KPIの一覧、検証のスケジュールと判断基準

GTM戦略のテンプレート

7ステップで決めたことを1枚にまとめると、マーケティング、営業、カスタマーサクセス、経営で同じ前提を持てます。下の表をスプレッドシートやスライドに写して使ってください。記入例は架空の製品です。

項目 書くこと 記入例(架空:中堅製造業向けの見積管理クラウド)
目的・期間 何を、いつまでに、どれだけ 2027年3月までに20社と契約、年間売上2,400万円
対象市場 TAM・SAM・SOMと計算の前提 従業員100〜1,000人の製造業(企業数は経済センサスで確認)。うち個別受注生産の企業をSAMとする
ICP 業種、規模、システム、組織、きっかけ 個別受注生産の機械・部品メーカー。営業部門が見積をExcelで作っている。基幹システムの入れ替えを検討中
売らない相手 ICPから外れる企業 見積が定型で、基幹システムで完結している量産型のメーカー
購買グループ 関わる人と気にすること 営業部長(見積の速さ)、設計部門(図面との連携)、情シス(セキュリティ・基幹システムとの連携)、社長(費用)
購買のきっかけ 検討が始まる場面 見積の遅れで失注した、ベテランの退職が決まった、基幹システムの入れ替え
価値提案 1文の価値提案 個別受注生産メーカーの見積作成を、過去の図面と見積の検索で半日から1時間に縮め、回答の遅れによる失注を減らす
代わりの手段と違い 競合・Excel・外注との違い Excelより過去の案件を探しやすい。汎用の販売管理より、図面と見積を一緒に扱える
証拠 事例、数値、デモ 先行導入した2社の作成時間の変化、30日間のトライアル
価格・プラン 課金の単位、初期費用 月額10万円(10ユーザーまで)、初期設定費用30万円。部門長の決裁で収まる価格帯から始める
GTMモーション・販売モデル 営業主導・PLGなど 営業主導。インサイドセールスが商談化し、フィールドセールスがデモと稟議を支える
チャネル 出会う経路 製造業向けの展示会、見積業務の課題を扱う記事、ICP企業への紙DM、地域の販売パートナー
役割分担 部門ごとの担当 マーケティングがリードを獲得、インサイドセールスが商談化、フィールドセールスが受注、カスタマーサクセスが定着を担う
KPI 先行指標と結果の指標 ICP企業のサイト訪問数、商談化率、受注率、受注までの日数、3か月後の利用率
検証と判断基準 振り返りの日と基準 90日ごとに振り返る。ICP企業の商談化率がICP外を下回ったら、ICPを見直す

テンプレートは一度作って終わりではなく、最初は仮説で埋め、商談や受注の結果を見て書き換えていくものです。

中小企業・少人数チームのGTM戦略

人も予算も限られる中小企業や少人数のチームでは、GTM戦略で「やらないこと」を決めることがより重要になります。

  1. 最初は市場を1つの業種と1つの課題に絞ります。「製造業全般」より「個別受注生産のメーカーの見積業務」のほうが、メッセージも出会う場所も具体的になります
  2. 最初の10社ほどは、経営者や責任者が自ら売ります。受注した理由と断られた理由を直接聞ける位置にいると、ICPと価値提案の修正が早く進みます
  3. チャネルは1〜2本に絞ります。既存顧客からの紹介、業界の展示会や団体、検索で読まれる記事、狙う企業を絞ったアウトバウンドなどから、ICPに一番近いものを選びます
  4. 大企業に売るなら、稟議と情シス向けの資料を先に作ります。会社の知名度や規模で不利になりやすいため、セキュリティの回答、導入事例、サポート体制を文書で出せるようにします
  5. 指標は商談数、商談化率、受注率、受注までの日数の4つほどに絞り、90日で検証します
  6. 業界に強い販売代理店やSIerと組むと、少ない人数でも販路を広げられます

海外のBtoB企業に学ぶGTM戦略

海外のBtoB企業のGTM戦略はそのまま真似るより「どんな条件でその型がうまくいったか」を読むと参考になります。

企業 主なGTMモーション 何をしたか 日本のBtoBで参考にできる点
Salesforce 営業主導+パートナー 2000年2月、「The End of Software(ソフトウェアの終わり)」をテーマにした発表イベントでサービスを始め、インストールのいらないCRMという新しい選択肢を打ち出した。2005年9月にはAppExchangeを発表し、ほかの会社が作ったアプリを自社の顧客に届ける場を用意した 新しい種類の製品は、今のやり方との違いを一言で示す。パートナーは販路だけでなく、製品の幅も広げる
HubSpot マーケティング主導+無料版 広告で割り込まれるより役立つ情報を求める買い手の変化に注目し、2006年にインバウンドマーケティングを掲げて創業した。2014年には無料のCRMを発表した 買い手が自分で調べる段階で、役立つ情報を通じて出会う。無料で使い始められる入り口を用意する
Slack プロダクト主導+直販 2019年の上場申請書類によると、成長の多くは口コミによるもので、組織の中では現場の利用者から使われ始めることが多い。2019年1月末時点で有料顧客は8.8万超、無料プランの組織は50万超。2016年からは直販の営業とカスタマーサクセスを加え、組織の中での定着と拡大を進めた 現場から広がる製品でも、大きな組織に広げる段階では営業とカスタマーサクセスが要る
Atlassian プロダクト主導 → 大企業向けの営業を強化 2015年の上場申請書類では、従来型の営業の体制を持たずにオンラインで製品を売り、利用者が自分ですぐに始められる仕組みを強みとしていた(顧客数は2015年9月末で51,636社)。2024年には、大企業の顧客にあわせて売り方を変えるため、大企業向けの営業改革を率いる最高収益責任者(CRO)を探していると株主に説明した 顧客が大企業に広がれば、GTMモーションも作り直す

4社とも、顧客や製品の広がりにあわせて、複数のGTMモーションを組み合わせています。プロダクト主導で広がったSlackやAtlassianも、大企業の顧客が増えると営業やカスタマーサクセスを加えました。日本のBtoBで参考にするなら、型を選ぶ前に、自社の顧客の買い方(関わる人数、稟議、情シスの評価)を確かめ、それに合わせて組み合わせることが大切です。

GTM戦略のKPI

KPIは、顧客が進む段階ごとに置きます。

段階 KPIの例 見る理由
狙った市場に届いているか ICPに合う企業のサイト訪問数、指名検索の数、ターゲット企業への接触率 ICPとチャネルの仮説が合っているかを、最も早く確かめられる
商談につながっているか リード数、商談化率(MQLからSQLへの移行率)、商談数 価値提案とメッセージが響いているかがわかる
受注できているか 受注率、受注までの日数、平均受注額 購買グループへの対応と価格が合っているかがわかる
使い続けてもらえているか 解約率、NRR(売上継続率)、LTV(顧客生涯価値) ICPの定義が正しかったかを、最終的に確かめられる
効率よく獲得できているか CAC(顧客獲得費用)、LTVとCACの比、CACの回収期間 販売モデルの採算が合っているかがわかる

LTVとCACの比について、SaaSの指標を整理したDavid Skok氏は「SaaS Metrics 2.0」で、優れたSaaS企業では3を超え、CACを5〜7か月で回収していると書いています。回収に12か月以上かかると収益性が乏しくなるとも述べています。本人も「あくまで目安」としていますが、販売モデルの採算を確かめる手がかりになります。

指名検索の数は、GTM戦略が市場に届き始めたかを見る手がかりになります。目安は「指名検索比率の平均値とベンチマーク」で紹介しています。

GTM戦略でよくある失敗

  • ICPを「従業員100人以上の企業すべて」のように広く決めると、メッセージもチャネルも絞れません
  • 購買グループの1人にしか訴求しないと、担当者は乗り気でも、情シスや決裁者の懸念に答える資料がなく、稟議で止まります
  • 情シスの評価を後回しにすると、セキュリティチェックシートへの回答に何週間もかかり、その間に競合に決まることがあります
  • チャネルを一度に増やしすぎると、どの施策が成果につながったのかわからなくなり、少人数のチームでは運用も回りません
  • 検証の基準と期限を決めていないと、うまくいっていない仮説を続けてしまい、方針を変える判断が遅れます
  • マーケティングと営業でICPの定義が違うと、マーケティングが集めたリードを営業が追わず、両部門の不信につながります
  • プロダクト主導など海外の成功例をそのまま持ち込むと、情シスの許可や稟議が必要な日本の大企業では進まないことがあります

GTM戦略の策定を外部に支援してもらうとき

社内に経験者がいない場合や、新しい市場に初めて出る場合は、外部の支援を使う選択肢もあります。

支援の種類 向いている場面
戦略コンサルティング会社 新規事業や大型の投資で、市場の調査と事業計画から固めたいとき
BtoBマーケティングの支援会社 ICPやメッセージを決め、記事、広告、ウェビナーなどの施策まで実行したいとき
営業代行・インサイドセールスの代行 商談をつくる部分を早く立ち上げ、ICPの仮説を検証したいとき
公的な支援機関 海外に進出するとき。JETRO(日本貿易振興機構)は、貿易投資相談、海外ミニ調査サービス、展示会・商談会への出展支援などを提供している

支援先を選ぶときは、次の点を確かめます。

  • 自社と同じ業界や、近い取引額の製品を支援した経験があるか
  • 戦略の資料を作って終わりか、施策の実行と検証まで一緒に進めるか
  • ICPの定義、メッセージング表、KPIの一覧など、成果物の形が具体的か
  • 支援が終わった後に、社内に知識と仕組みが残るか
  • 費用と期間、途中で見直せる契約か

依頼する前に、既存顧客の一覧、受注・失注の理由、商談の記録、サイトのアクセスデータをそろえておくと、支援する側が現状を早くつかめ、提案も具体的になりやすくなります。

ICPの検証とターゲットリスト作りにtoviraを使う

GTM戦略の中で、仮説のまま進みやすいのがICPです。「狙っている業種や規模の企業が、実際にサイトを訪れて検討しているか」は、データで確かめられます。

toviraのcoreAnalyticsは、サイトを訪れた企業を特定するBtoB向けのアクセス解析ツールです。

  • 訪問企業を業種、規模、地域などで分類し、ICPに合う企業がどれだけ来ているかを確かめる
  • 訪問企業ごとに、どのページをどの順番で見たかをタイムラインで追い、比較検討がどこまで進んでいるかを推し量る
  • 訪問企業の事業内容や経営課題を、AIがWebや有価証券報告書をもとに出典つきでまとめる

ICPが固まったら、ターゲット企業のリストを作ります。toviraのleadGeneratorは、BtoBのリード獲得とABMのためのツールです。

  • 全国75万社・100万拠点、25万社・200万部署の企業・部署データベースから、業種や部署で絞り込んでリストを作る
  • 過去に受注した企業と似た企業を、AIが抽出する
  • フォーム営業、紙のDM、企業を狙った広告など、複数のチャネルでのアプローチを営業AIエージェントで自動化する

※2026年10月時点の各機能ページの記載に基づきます。

ICPに合う企業がサイトを訪れているかを確かめたい方へ

coreAnalyticsでできることは機能ページで紹介しています。

coreAnalyticsの機能を見る

よくある質問

GTM戦略とは何ですか?

GTM(Go-to-Market)戦略とは、製品やサービスを誰に、どんな価値として、どの経路で、いくらで届けて売上にするかを決める計画です。新製品の発売や、新しい業種・地域への参入のたびに作ります。

GTM戦略とマーケティング戦略の違いは何ですか?

マーケティング戦略は製品を知ってもらい、比較で選ばれるまでの計画です。GTM戦略はそれより範囲が広く、価格、販売チャネル、営業体制、受注後の定着まで含みます。マーケティング戦略はGTM戦略で決めた前提にそって作ります。

GTM戦略のフレームワークは何から使えばいいですか?

まずTAM・SAM・SOMで市場の大きさを確かめ、ICPで狙う企業を決めます。そのうえで、GTMモーション(営業主導、プロダクト主導など)と販売モデル(ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチ)を選ぶと、施策と体制を決めやすくなります。

GTM戦略は誰が作りますか?

事業責任者やプロダクトの責任者が中心になり、マーケティング、営業、カスタマーサクセスの責任者が一緒に作るのが一般的です。各部門の前提をそろえることが目的の1つなので、1つの部門だけで作らないようにします。

中小企業にもGTM戦略は必要ですか?

必要です。人も予算も限られるからこそ、狙う業種と課題、使うチャネルを絞る判断が欠かせません。1枚のテンプレートで十分なので、仮説を書き出して90日ごとに見直すところから始めてください。

GTM戦略はどのくらいの頻度で見直しますか?

立ち上げの時期は、90日ごとに見直すのが目安です。ICP、メッセージ、チャネルの仮説が商談や受注の結果と合っているかを確かめます。軌道に乗った後も、新しい市場に出るときや、競合・顧客の比べ方が大きく変わったときは作り直します。

GTMエンジニアとは何ですか?

AIや自動化の道具を使って、見込み客のリスト作り、データの整備、アプローチの仕組みを組み立てる職種です。米国の営業データツールの会社Clayが2023年に作った職種だとしています。米国では求人が増えており、2025年6月の14件から2026年6月には129件になったという集計もあります。

まとめ

  • GTM戦略は製品を「誰に・何を価値として・どの経路で・いくらで売り、何で成果を測るか」を1つにまとめた計画。マーケティング戦略や営業戦略より範囲が広い
  • BtoBでは購買グループと、比較検討・稟議・情シスの評価の流れを先に書き出し、それぞれに渡す資料まで決めておく
  • 立て方は「目的と範囲 → 対象市場とICP → 購買グループと購買プロセス → 価値提案 → 価格 → チャネルと販売モデル → KPIと検証計画」の7ステップ
  • フレームワークはTAM・SAM・SOM、ICP、GTMモーション、販売モデルから始める
  • 中小企業や少人数のチームは、1つの業種と1つの課題、1〜2本のチャネルに絞り、90日で検証する
  • 1枚のテンプレートにまとめ、商談と受注の結果を見て書き換えていく

GTM戦略は作った時点ではすべて仮説です。狙った企業がサイトを訪れているか、商談になっているか、使い続けてもらえているかを確かめながら、ICPから順に直していきましょう。

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参考資料

編集者:

中川 晃次

再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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