B2B営業のDX、本当に成功していますか? 最新研究が明かす「デジタル化の落とし穴」と実践のヒント

2024年、スウェーデンの研究チームが発表した論文「Challenges and opportunities in the digitalization of the B2B customer journey」は、まさにこの問題の核心に迫る重要な研究です。本記事では、この論文の知見を日本のビジネス現場で活かせる形で解説します。

なぜ今、B2Bカスタマージャーニーのデジタル化が注目されるのか

B2C(消費者向けビジネス)ではEコマースやSNSマーケティングが当たり前になった一方、B2B(企業間取引)のデジタル化は遅れていると言われてきました。しかし、コロナ禍を経て状況は一変。オンライン商談、デジタルカタログ、ウェビナーなど、B2B企業も急速にデジタルツールを導入しています。

カスタマージャーニーとは、顧客が製品やサービスを認知してから購入し、継続利用するまでの一連のプロセスを「旅」に例えた概念です。B2Bでは、この旅が長く複雑で、多くの関係者(購買担当、技術担当、経営層など)が関わるのが特徴です。

研究が明らかにした「3つの主要課題」

論文の著者たちは、実際のB2B企業へのインタビュー調査を通じて、デジタル化における課題を明らかにしました。

1デジタルと対面のバランスの難しさ

多くの企業が直面しているのが、「どこまでデジタル化し、どこで人間的な接触を残すべきか」という判断です。

実務へのフィードバック:

  • 初期段階(認知・関心): ウェビナー、ホワイトペーパー、SEO対策などデジタル中心でOK
  • 中期段階(検討・比較): オンライン商談と対面を組み合わせ、顧客の反応を見ながら調整
  • 後期段階(契約・導入): 高額案件や複雑な製品は対面での信頼構築が不可欠
  • 継続段階(アフターサービス): チャットボットやカスタマーポータルで効率化しつつ、定期的な対面フォローを設定

実際、ある製造業の企業では「100万円以下の案件はフルオンライン、それ以上は対面を必須」というルールを設けて成果を上げています。

2組織内のサイロ化(縦割り)

デジタル化を進める際、マーケティング部門、営業部門、カスタマーサポート部門がバラバラに動いてしまう問題です。その結果、顧客は部署ごとに異なる情報を受け取り、混乱します。

実務へのフィードバック:

  • 統合CRM(顧客関係管理)システムの導入: Salesforce、HubSpot、Dynamics 365などで顧客情報を一元管理
  • クロスファンクショナルチームの結成: 週次で営業・マーケ・サポートが顧客状況を共有する会議を設置
  • 共通KPIの設定: 「部門別の売上」ではなく「顧客生涯価値(LTV)」を全社目標に
  • カスタマージャーニーマップの共同作成: 各部門が顧客の体験全体を可視化し、責任範囲を明確化

例えば、あるIT企業では、マーケティングが獲得したリードに営業がすぐフォローできるよう、Slackで自動通知する仕組みを作り、商談化率が30%向上しました。

3データ活用能力の不足

デジタルツールを導入しても、そこから得られるデータを分析・活用できなければ意味がありません。多くの企業が「データは取れているが、何をすべきか分からない」状態に陥っています。

実務へのフィードバック:

  • まずは基本指標から: ウェブサイト訪問数、資料ダウンロード率、メール開封率などシンプルな指標を週次でチェック
  • 行動スコアリングの導入: 「資料ダウンロード=5点」「価格ページ閲覧=10点」など、顧客の関心度を数値化
  • A/Bテストの習慣化: メールの件名、ランディングページのデザインなど、小さな改善を継続
  • データリテラシー研修: 営業担当にもGoogle Analyticsの基本やダッシュボードの見方を教育

ある商社では、営業が「どのコンテンツを顧客が見ているか」をリアルタイムで確認できるダッシュボードを導入し、商談の成約率が25%向上しました。

研究が示す「4つの機会」

課題だけでなく、デジタル化がもたらす機会も論文は指摘しています。

機会1: 顧客インサイトの深化

デジタルツールは、従来の対面営業では見えなかった顧客の行動パターンを可視化します。

実践例:

  • ウェブサイトのヒートマップ分析で、顧客が最も注目しているコンテンツを特定
  • メールマーケティングの開封時間から、顧客が情報収集する時間帯を把握し、商談時間を最適化
  • チャットログから、顧客がよく質問する内容をFAQやコンテンツに反映

機会2: パーソナライゼーションの実現

デジタルだからこそ、一人ひとりの顧客に合わせた情報提供が可能になります。

実践例:

  • 業界別・役職別に異なるメールコンテンツを自動配信
  • ウェブサイト訪問履歴に基づいて、関連性の高い事例やホワイトペーパーを推奨
  • 過去の購買履歴から、最適なタイミングで買い替え提案

機会3: 営業効率の向上

ルーティンワークをデジタル化することで、営業担当は付加価値の高い活動に集中できます。

実践例:

  • 見積作成の自動化(設定した条件に基づき自動生成)
  • 商談後のフォローアップメールをテンプレート化・自動送信
  • リード(見込み客)のスコアリングで、優先すべき顧客を自動抽出

機会4: 新しいビジネスモデルの創出

デジタル化は、従来の売り切りモデルから、サブスクリプション(定額制)やデータ活用型サービスへの転換を可能にします。

実践例:

  • 製造業が機械の稼働データを収集し、予防保守サービスを提供
  • 卸売業がオンラインプラットフォームを通じて、小売店向けに在庫管理支援サービスを展開
  • コンサルティング会社がオンライン学習プラットフォームで継続的な支援を提供

明日から始められる「3つのアクション」

この論文の知見を踏まえ、すぐに実践できることをまとめます。

アクション1: カスタマージャーニーマップを描く

顧客が最初の接点から購入、継続利用に至るまでの各段階で、どんな情報を必要とし、どんな不安を抱えているかを可視化しましょう。営業、マーケティング、サポート部門を集めて、ホワイトボードに書き出すだけでも効果的です。

アクション2: デジタルと対面の「切り分けルール」を決める

金額、製品の複雑さ、顧客の属性などに基づいて、どの段階でオンライン・対面を使うかのガイドラインを作成。まずは試験的に運用し、3ヶ月後に見直しましょう。

アクション3: 週次の「データ振り返り会議」を設定

30分でいいので、ウェブサイトのアクセス数、問い合わせ数、商談化率などの基本指標を確認する場を設けましょう。数字の変化から「なぜ?」を問い、小さな改善を積み重ねることが重要です。

論文の知見を実現する具体的なツール

ここまで紹介してきた課題と機会に対して、実際に取り組もうとすると「どこから手をつければいいのか」「社内のリソースが足りない」という壁に直面することも多いでしょう。

特に論文が指摘する「データ活用能力の不足」「組織のサイロ化」という2つの課題は、多くの日本企業が抱える共通の悩みです。

「見えない顧客」を可視化し、自動でアプローチする

B2B企業向けマーケティングプラットフォーム「tovira」は、まさにこの論文が示す課題に対応するために設計されたツールです。

論文が強調する「顧客インサイトの深化」に対しては、toviraの「coreAnalytics」が匿名のウェブサイト訪問者を企業情報に変換し、どの企業が、どのページを、どのように見ているかを詳細に可視化します。

業種別・企業規模別分析

ターゲット顧客の傾向を把握し、営業戦略を最適化

ヒートマップ機能

顧客が本当に関心を持っているコンテンツを特定

コンバージョン動線分析

成約につながる顧客の行動パターンを解明

これらのデータは、パワーポイント形式で自動レポート化されるため、「データはあるが分析できない」という問題を解消します。

AIが最適なタイミングで自動アプローチ

さらに、論文が機会として挙げた「営業効率の向上」「パーソナライゼーションの実現」については、「leadGenerator」が担います。

coreAnalyticsで可視化された顧客データに基づき、3次元スコアリング(行動・属性・時系列)で「今、営業すべき顧客」を自動判定。そして、メール、紙DM、ABM広告、フォーム営業など、複数のチャネルを顧客の熱量に応じて自動的に使い分けてアプローチします。

  • デジタルと対面のバランス: 初期段階はデジタルで効率的にアプローチし、スコアが高まった企業には営業が直接フォロー
  • 組織のサイロ化解消: 一つのプラットフォームでマーケティングから営業までのデータを統合管理
  • データ活用の民主化: 専門知識がなくても、AIが次にすべきアクションを提示

問い合わせしない95%の企業にもリーチする

論文が指摘するように、B2Bの購買プロセスは長く、多くの顧客は「検討段階」で問い合わせをしません。toviraは、この「サイレントな検討者」にアプローチできることが最大の強みです。

実際、ウェブサイトに訪問する企業のうち、問い合わせに至るのはわずか5%。残りの95%の企業は、関心があっても何もアクションを起こさずに去っていきます。toviraを使えば、この95%の企業を特定し、適切なタイミングで適切な方法でアプローチすることが可能になります。

B2Bのデジタル化は、ツールを導入することではなく、顧客理解を深め、より良い関係を築くことが本質です。toviraは、まさにこの論文が示す「課題の解決」と「機会の実現」を、実務レベルで支援するプラットフォームといえるでしょう。

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まとめ: デジタル化は「手段」であり「目的」ではない

この論文が最も強調しているのは、「デジタル化そのものが目的化してはいけない」という点です。あくまで顧客により良い体験を提供し、ビジネス成果を上げるための手段に過ぎません。

B2Bの強みは、長期的な信頼関係にあります。デジタルツールはその関係構築を「補完」するものであって、「代替」するものではありません。人間的な接触の価値を認識しながら、デジタルの効率性を活かす——このバランスこそが、これからのB2B営業の鍵となるでしょう。

参考文献

Andersson, S., Aagerup, U., Svensson, L., & Eriksson, S. (2024). Challenges and opportunities in the digitalization of the B2B customer journey. Journal of Business & Industrial Marketing.