アンカリング効果とは?BtoBマーケティングで成約率を高める活用法と実践ステップ

Anchoring Effect × BtoB Marketing

アンカリング効果で
BtoBの成約率を変える

「最初の数字」が商談の勝敗を分ける——行動経済学が証明した、BtoBマーケティングの必修テクニックを図解します。

「業界平均の1.5倍の成果を実現」——この一文を読んだ瞬間、あなたの頭に「1.5倍」という数字が刻まれたはずです。これがアンカリング効果の正体。BtoBの価格交渉、提案資料、料金ページ、あらゆる場面で「最初に出す情報」が成果を左右します。

WHAT IS

アンカリング効果とは?

最初に提示された情報(数値や条件)が判断の基準=アンカー(錨)となり、その後の意思決定に無意識の影響を与える認知バイアスのこと。

海に錨を下ろした船が一定範囲でしか動けないように、人間の判断も最初の情報に引きずられて、その周辺に留まります。

情報提示前

判断の基準がなく
広い範囲で迷う

← どこにでも動ける →
アンカー提示後

最初の情報に固定され
周辺でしか判断できない

⚓ 限定された範囲
RESEARCH

ノーベル賞学者が証明した実験

Original Paper

Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases

Amos Tversky & Daniel Kahneman(1974)

Science, Vol. 185, No. 4157, pp.1124–1131

論文を読む(Science)

※カーネマンはこの研究を含む行動経済学の功績で2002年ノーベル経済学賞を受賞

Group A

アンカー「65%」を提示

45%

推定の中央値

高い数字に引きずられ
高めに推定した

Group B

アンカー「10%」を提示

25%

推定の中央値

低い数字に引きずられ
低めに推定した

同じ質問なのに、最初の数字が違うだけで回答に20%の差

これがアンカリング効果のパワーです

WHY BtoB

なぜBtoBで特に効くのか?

BtoBの購買プロセスには、アンカリング効果が強く作用する3つの構造的理由があります。

比較検討が前提

複数社を比べるBtoBでは「何を基準に比較するか」を先に提示した企業が有利になります。

高額・長期の決定

判断が難しいほど、人は最初に得た情報に依存します。SaaSやコンサルでは特に顕著です。

複数の意思決定者

経営層・現場・IT部門など、各DMUの関心事に合わせたアンカー設計で全員に刺さります。

DMU(意思決定者)ごとの有効なアンカー例

DMU 主な関心事 アンカー例
経営層 ROI・コスト削減 「平均ROI 280%」「年間660万円削減」
現場担当者 業務効率・使いやすさ 「作業時間42%短縮」「定着率95%」
IT部門 セキュリティ・安定性 「稼働率99.9%」「ISO27001認証」
購買・調達 価格妥当性 「業界平均15万円→当社9.8万円」
5 SCENES

活用シーン5選

BtoBマーケティングのあらゆるタッチポイントでアンカリング効果を実践できます。

1

料金ページ・価格プランの設計

最重要

「松竹梅の3プラン構成」と「業界平均との比較表示」で、狙ったプランに自然と誘導できます。

Enterprise

40万円

/月

↑ アンカー
人気 No.1

Standard

20万円

/月

★ 選ばれる

Starter

8万円

/月

2

営業・商談での価格提示

いきなり値引き後の金額を出さず、まず標準価格を提示してから特別価格を提案するのがポイントです。

STEP 1:標準価格を提示

月額 40万円

STEP 2:特別価格を提案

月額 28万円

「御社向けにカスタマイズした結果です」

3

セミナー・展示会

業界課題の大きな数値を先に提示し、自社の成果を際立たせるテクニック。

ネガティブアンカー

70%

のDXプロジェクトが
期待した成果を出せていない

自社の実績

89%

の導入企業が
初年度にROI達成

4

Webサイト・LP(ランディングページ)

ファーストビューに印象的な数値を配置し、訪問者の判断基準をポジティブに設定します。

1,200社

導入企業数

97.3%

顧客満足度

35%

平均コスト削減

5

提案資料・ホワイトペーパー

課題のコスト(損失額)を先に定量化してからソリューションを提示。損失額がアンカーになり、投資の妥当性が伝わります。

手作業コスト(アンカー)

月額 80万円

ツール導入後

月額 25万円

年間削減効果

660万円

4 STEPS

導入ステップ

アンカリング効果をBtoBマーケティングに取り入れるための4つのステップです。

1

競合・業界調査

価格帯やサービス内容を調べ、アンカーの基準値を特定する

2

自社の強み明確化

差別化要素を洗い出し、価格以外の付加価値も準備する

3

アンカー設計・実装

各チャネル・フェーズに最適なアンカーを配置する

4

効果検証(PDCA)

CVR・成約率・プラン選択比率をデータで検証し改善する

CAUTION

注意すべき4つのリスク

景品表示法の違反

架空の「通常価格」での二重価格表示は行政処分の対象。過去の販売実績に基づく価格のみを表示しましょう。

相場との乖離

業界相場から大きく外れたアンカーは不信感を招きます。合理的に説明できる範囲で設定を。

リテラシーの高い顧客

相場を熟知した顧客にはROI・サポート品質など価格以外の付加価値で訴求する戦略が必要です。

倫理的配慮

情報の「見せ方の最適化」であり、虚偽で騙す手段ではありません。事実と透明性を徹底しましょう。

TAKEAWAY

覚えておきたい3つの原則

アンカリング効果をBtoBマーケティングで活かすための核心をまとめました。

原則 1

先に出した数字が
勝負を決める

料金ページ、商談、LP——あらゆるタッチポイントで「最初に何を見せるか」を意識的に設計しましょう。

原則 2

DMUごとに
アンカーを変える

経営層にはROI、現場には効率化、IT部門にはセキュリティ。刺さるアンカーは相手によって異なります。

原則 3

誠実さが
最大のアンカー

事実に基づく透明な情報提示が長期の信頼を生みます。テクニックに溺れず、価値を正しく伝えましょう。

「業界平均の1.5倍の成果を実現」——この一文を読んだ瞬間、あなたの頭の中に「1.5倍」という数字が刻まれたはずです。これこそが、今回解説するアンカリング効果の正体です。

BtoBマーケティングの世界では、価格設定、提案資料、商談トーク、Webサイトの料金ページなど、あらゆる場面で「最初にどんな情報を提示するか」が成果を左右します。アンカリング効果は行動経済学に裏打ちされた強力な心理メカニズムであり、BtoB特有の合理的な意思決定プロセスの中でも確実に機能します。

本記事では、アンカリング効果の基礎知識からBtoBマーケティングでの具体的な活用シーン、導入ステップ、注意すべきリスクまでを体系的に解説します。

アンカリング効果とは?行動経済学が明らかにした認知バイアス

アンカリング効果とは、最初に提示された情報(数値・条件など)が判断の基準(=アンカー)となり、その後の意思決定に無意識の影響を与える認知バイアスのことです。

語源は英語の「Anchoring(錨を下ろす)」に由来します。海に錨を下ろした船が一定の範囲でしか動けないように、人間の判断も最初に与えられた情報に引きずられて、その周辺に留まる傾向があります。

判断の移動範囲 アンカー(最初に提示された情報) 最初の情報に「錨」のように 固定され、判断がその周辺に留まる
図1:アンカリング効果の概念図——最初に提示された情報が「錨」となり、判断の範囲を制限する

カーネマンとトベルスキーの実験

アンカリング効果のメカニズムは、心理学者エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンによって1970年代に実証されました。カーネマンはこの研究を含む行動経済学の功績により、2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。

彼らが行った有名な実験では、被験者に「国連加盟国のうちアフリカ諸国の割合」を推定してもらう際、事前に異なる数字を提示しました。

カーネマンとトベルスキーの実験結果 グループA:アンカー「65%」 推定中央値 45% 「65%」に引きずられ 高めに推定 グループB:アンカー「10%」 推定中央値 25% 「10%」に引きずられ 低めに推定 同じ質問なのに、アンカーの違いで推定値に20%もの差が発生
図2:同じ質問に対して、事前に提示された数字(アンカー)が異なるだけで回答が大きく変化した

まったく同じ質問であるにもかかわらず、最初に提示された数字(アンカー)によって回答が大きく変わりました。この実験結果は、人間の判断がいかに「最初の情報」に引きずられるかを如実に示しています。

出典:Tversky, A. & Kahneman, D. (1974). "Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases." Science, 185(4157), 1124–1131.

アンカリング効果が働く2つのメカニズム

アンカリング効果が発生する背景には、大きく2つの心理的メカニズムがあります。

1. 不十分な調整(Insufficient Adjustment)

人は最初に提示された数値を起点として、そこから調整を試みます。しかし、その調整は多くの場合不十分であり、結果としてアンカーに近い判断を下してしまいます。たとえば、最初に「月額50万円」と提示されたサービスの価格交渉で、仮に「高い」と感じても、そこから大幅に離れた金額を提示しづらくなるのはこの作用です。

2. 選択的アクセス(Selective Accessibility)

アンカーとなる情報を受け取ると、脳はその情報に関連する記憶や知識を優先的に呼び起こします。たとえば「高品質」「プロ仕様」といった言葉が最初に提示されると、その後の情報もポジティブなフィルターを通して解釈されやすくなります。これは数値だけでなく、言葉や印象によるアンカリングにも当てはまります。

メカニズム 概要 BtoBでの具体例
不十分な調整 アンカーを起点とした調整が不足し、アンカーに近い判断を下す 標準価格を先に提示された顧客が、値引き交渉でもその価格帯から大きく離れられない
選択的アクセス アンカーに関連する情報が脳内で優先的に呼び起こされる 「導入企業1,200社」と先に提示されることで、信頼性や安心感に関する情報が優先的に想起される

なぜBtoBマーケティングでアンカリング効果が有効なのか

BtoBの購買プロセスは、BtoCに比べて「合理的」「論理的」と思われがちです。しかし実際には、BtoBの意思決定者も人間である以上、認知バイアスの影響を受けます。むしろBtoBには、アンカリング効果が特に有効に機能する構造的な理由があります。

比較検討が前提の購買プロセス

BtoBの見込み顧客は、複数のサービスを比較検討してから導入を決定します。つまり「何を基準に比較するか」というアンカーの設定が、自社を有利に導くカギになります。業界平均や競合サービスの価格を先に提示することで、自社サービスの位置づけをコントロールできるのです。

高額かつ長期の意思決定

BtoBでは契約金額が大きく、契約期間も長期にわたるケースが多いです。こうした「判断が難しい」状況ほど、人は最初に得た情報に依存する傾向が強まります。適正価格が分かりにくいSaaSやコンサルティングサービスでは、アンカリング効果がとりわけ強く作用します。

複数の意思決定者(DMU)が関与する

BtoBでは、経営層、現場担当者、情報システム部門など、複数の意思決定関与者(DMU: Decision Making Unit)が存在します。それぞれの関心事に合わせたアンカーを設計することで、各DMUに対して効果的に訴求できます。

DMU(意思決定者) 主な関心事(KBF) 有効なアンカー例
経営層 売上向上・コスト削減・ROI 「導入企業の平均ROI 280%」「年間コスト削減額660万円」
現場担当者 業務効率化・使いやすさ 「作業時間を平均42%短縮」「定着率95%」
情報システム部門 セキュリティ・リスク回避 「稼働率99.9%」「ISO27001認証取得」
購買・調達部門 価格の妥当性・コスト比較 「業界平均月額15万円に対し9.8万円」「3年TCO比較で最安」

参考:顧問のチカラ「アンカリングとは?営業マンがアンカリングを理解すると売れる訳」

BtoBマーケティングにおけるアンカリング効果の活用シーン

ここからは、BtoBマーケティングの具体的な場面ごとに、アンカリング効果をどのように活用できるかを解説します。

1. 料金ページ・価格プランの設計

BtoBサービスの料金ページは、アンカリング効果を活かす最も代表的な場面です。

業界平均価格との比較表示

自社サービスの価格が業界平均よりも優位な場合、参考価格として業界平均を併記することが効果的です。アンカーとなる業界平均価格が基準となり、自社価格のお得感が際立ちます。

業界平均価格との比較表示の例 業界平均(参考価格) 月額 150,000円 ← これがアンカーとして機能 当社サービス 月額 98,000円 ▼ 52,000円お得!(約35%OFF)
図3:業界平均価格をアンカーとして提示し、自社サービスの割安感を際立たせる表示例

松竹梅(3段階プラン)の設計

料金プランを3つの価格帯で設計する手法は、アンカリング効果と「松竹梅の法則」を組み合わせた戦略です。最上位プランを最初に目に入る位置に配置することで、そのプランがアンカーとなり、中間プランが「バランスの良い選択肢」として選ばれやすくなります。

具体的な設計ポイントは以下の通りです。

  • 最上位プランは自社が最も推奨する中間プランの1.5〜2.5倍程度の価格に設定する
  • 各プランの機能差を明確にし、中間プランのコストパフォーマンスが伝わるようにする
  • 「おすすめ」「人気No.1」といったラベルを中間プランに付与し、選びやすさを演出する
松竹梅プラン設計のイメージ Enterprise(松) 月額40万円 全機能 + 専任サポート カスタマイズ対応 SLA保証 ↑ アンカーとして機能 Standard(竹)★人気No.1 月額20万円 主要機能すべて利用可 メール&チャットサポート API連携対応 ↑ 選ばれやすい中間プラン Starter(梅) 月額8万円 基本機能のみ メールサポート ユーザー数制限あり
図4:松竹梅の法則とアンカリング効果を組み合わせた料金プラン設計例

導入コストのROI比較

BtoBでは費用対効果(ROI)が重視されます。単に価格を提示するだけでなく、「導入しない場合のコスト(機会損失・人件費など)」を先に提示し、それをアンカーとして自社サービスの投資対効果を際立たせる方法が有効です。

表示例

手作業による月間コスト 80万円 → 当ツール導入後 月間コスト 25万円(年間660万円の削減効果)

参考:ferret One「アンカリング効果とは?マーケティングで使えるユーザー心理を掴むコツ」

2. 営業・商談での活用

対面やオンラインでの商談は、アンカリング効果を最もダイナミックに活用できる場面です。

初回提案での価格提示戦略

BtoB営業では、最初に提示する金額がその後の価格交渉全体の基準を決めます。いきなり値引き後の金額を出すのではなく、まず標準価格や上位プランの価格を提示し、その上で顧客の要件に合わせた特別価格を提示するという順序が重要です。

トーク例

「通常はフルパッケージで月額40万円でご提供しています。今回は御社のご要件に合わせてカスタマイズした結果、月額28万円でご案内できます」

この順序で提示すると、28万円が「40万円からのディスカウント」として認識され、顧客は合理的な判断のもとで「得をした」と感じやすくなります。

実績数値によるアンカリング

商談の冒頭で、印象的な実績数値を提示することもアンカリングの一種です。

  • 「導入企業の平均で業務効率が42%改善しています」
  • 「目標KPIの65%を上回る78%の達成率を実現しました」
  • 「業界トップ100社のうち38社に導入いただいています」

このような数値を商談の早い段階で提示することで、顧客の期待値や判断基準をポジティブな方向に設定できます。

見積書の複数提示

見積書を1つだけ出すのではなく、高・中・低の3パターンを用意する手法は、特にコンサルティングやカスタム開発など価格の標準化が難しいサービスで効果を発揮します。最も高額な見積書がアンカーとなり、中間の見積書が「妥当な選択」として受け入れられやすくなります。

参考:LEAPT「アンカリング効果とは?商談を有利に進める価格提示のコツと具体例を解説」

3. セミナー・展示会での活用

BtoBマーケティングにおいて、セミナーや展示会はリード獲得と信頼構築の重要チャネルです。

数値データによる印象づけ

プレゼンテーションの冒頭で、業界の課題を示す大きな数値を提示し、その後に自社ソリューションの効果を示す手法が効果的です。

プレゼン冒頭の例

「日本企業のDXプロジェクトの約70%が期待した成果を出せていません。しかし、当社のソリューションを導入した企業の89%が初年度にROIを達成しています」

最初に提示された「70%が失敗」というネガティブなアンカーが基準となり、「89%がROI達成」という自社の数値がより際立って伝わります。

セットプランの提案

展示会のブースでは、個別サービスの価格を先に提示した上で、セット割引を案内する方法があります。個別合計額がアンカーとなり、セット価格のお得感が増幅されます。

4. Webサイト・LP(ランディングページ)での活用

オンライン上のタッチポイントでも、アンカリング効果は重要な役割を果たします。

ファーストビューでの数値インパクト

LPのファーストビュー(最初に目に入る画面領域)に、印象的な数値を配置することでアンカーを設定します。

  • 「導入企業1,200社突破」
  • 「顧客満足度97.3%」
  • 「平均コスト削減率35%」

これらの数値が訪問者の第一印象となり、その後の情報をポジティブに受け取る土台をつくります。

事例ページでのBefore/After表示

導入事例では、導入前の状況(課題の大きさ、コスト、時間)を先に詳しく記述し、その後に導入後の改善結果を示すことで、改善幅の印象を最大化できます。

5. 提案資料・ホワイトペーパーでの活用

BtoBマーケティングで配布する資料類でも、アンカリングを意識した情報設計が成果を左右します。

課題の「定量化」を先行させる

ホワイトペーパーの前半で、業界が抱える課題のコストや損失額を具体的な数値で提示します。その数値が読者のアンカーとなり、後半で紹介するソリューションの価値が「その損失を回避できる投資」として受け止められます。

競合比較表でのポジション設定

自社サービスと競合サービスの比較表を掲載する場合、比較対象として自社よりも高価格帯のサービスを含めることで、自社サービスのコストパフォーマンスが際立ちます。ただし、比較内容は事実に基づくものでなければなりません。

参考:Primo Posto「成功の鍵は心理学にあり。アンカリング効果を利用したBtoBマーケティング」

アンカリング効果をBtoBマーケティングに導入する4つのステップ

アンカリング効果を自社のBtoBマーケティングに取り入れるための、実践的なステップを紹介します。

アンカリング効果 導入の4ステップ STEP 1 競合・業界 調査 価格帯・サービス 内容を網羅的に把握 STEP 2 自社の強み 明確化 差別化要素を 多角的に洗い出し STEP 3 アンカー 設計・実装 各チャネルに最適な アンカーを配置 STEP 4 効果 検証 PDCA サイクル データに基づき改善を繰り返す 主な検証指標: CVR変化 | プラン選択比率の推移 | 成約率・平均単価の変動 | LP滞在時間・スクロール率
図5:アンカリング効果をBtoBマーケティングに導入する4ステップとPDCAサイクル

ステップ1:競合・業界の徹底調査

まず取り組むべきは、競合他社や業界全体の価格帯・サービス内容・訴求ポイントの調査です。自社以外のサービス価格を網羅的に調べ、業界内の標準価格帯を把握しましょう。

この調査で得たデータはポジショニングマップに整理し、自社サービスの競争上の位置づけを可視化します。アンカーとして活用できる「業界平均」「競合最高価格」「市場の標準仕様」などの基準値を特定することが、このステップのゴールです。

ステップ2:自社の強み・差別化ポイントの明確化

調査結果をもとに、自社サービスが競合に対してどのような優位性を持つかを明確にします。価格だけでなく、導入実績、サポート体制、機能の独自性、ROIの高さなど、多角的な視点で差別化要素を洗い出します。

BtoBでは価格の相場を熟知した見込み顧客も多いため、単純な価格比較だけではアンカリング効果が発揮されにくいケースがあります。価格に加えて「付加価値」を訴求するための材料を、このステップで準備しておくことが重要です。

ステップ3:アンカーの設計と情報提示の最適化

ステップ1・2で得た情報をもとに、各マーケティングチャネルで提示するアンカーを設計します。

ここで重要なのは、見込み顧客の行動プロセスの中で「最もアンカーが効果を発揮するタイミング」を見極めることです。カスタマージャーニーを描き、認知・興味・比較検討・商談・成約の各フェーズで、どのような数値や情報をアンカーとして提示すれば効果的かを設計します。

フェーズ 主なタッチポイント アンカー設計の方向性
認知 広告・SNS・オウンドメディア 業界課題の損失額、市場規模など大きなインパクト数値
興味・関心 LP・ホワイトペーパー・ウェビナー 導入効果の実績数値、顧客満足度
比較検討 料金ページ・比較資料・事例 業界平均価格、競合価格帯、ROI比較
商談 営業資料・見積書・デモ 標準価格からの特別価格、複数プランの提示
成約・契約 契約書・オンボーディング資料 長期契約の割引、年間一括払いの優位性

ステップ4:効果検証と改善(PDCAサイクル)

アンカリング効果の施策を実行したら、必ずデータを収集して効果を検証します。BtoBマーケティングではPDCAサイクルを回し続けることが成果の最大化につながります。

検証すべき主なポイントは以下の通りです。

  • アンカリング施策の導入前後でのコンバージョン率の変化
  • 料金プランの選択比率の推移(中間プランが選ばれる割合が増えたか)
  • 商談での成約率・平均単価の変動
  • LPのファーストビュー滞在時間やスクロール率の変化

データに基づいてアンカーの内容や提示方法を調整し、継続的に改善していきましょう。

参考:ferret One「アンカリング効果とは?マーケティングで使えるユーザー心理を掴むコツ」

アンカリング効果を活用する際の注意点とリスク

アンカリング効果は強力な手法ですが、使い方を誤ると逆効果やコンプライアンス違反につながります。以下の注意点を必ず押さえておきましょう。

景品表示法(二重価格表示)への違反リスク

価格にアンカリング効果を適用する際、最も注意すべきは景品表示法です。「通常価格○○円のところ、今なら△△円」という二重価格表示には、法律上のルールがあります。

元値(通常価格)として表示するには、過去一定期間以上その価格で実際に販売していた実績が必要です。架空の高額な「通常価格」を設定して割安感を演出する行為は、不当表示として行政処分の対象になる可能性があります。BtoBであっても、この規制は適用されます。

出典:消費者庁「景品表示法」

相場を逸脱したアンカーは逆効果

アンカーは「印象的」であるほど効果がありますが、あまりにも相場とかけ離れた数値は、顧客に不信感を与えます。たとえば、競合が月額10万円前後で提供しているサービスに対して、自社の「通常価格50万円」を掲げれば、信頼を損ねるだけでなく「この会社は不誠実だ」という印象を与えかねません。

BtoBの顧客は情報収集能力が高く、競合調査も十分に行っています。アンカーは業界の相場から著しく乖離しない範囲で設定し、合理的に説明できる根拠を持たせることが大切です。

相場に詳しい顧客への対応

BtoBの顧客の中には、業界内の価格相場を熟知している担当者も少なくありません。こうした「アンカーが効きにくい」層に対しては、価格面のアンカリングだけに頼らず、ROI、導入効果の実績データ、サポート品質、セキュリティなど、価格以外の付加価値で訴求する戦略が必要です。

倫理的配慮を忘れない

アンカリング効果は、あくまで「情報の提示方法」を最適化する手法です。虚偽の情報で顧客を騙すための手段ではありません。提示する数値や情報はすべて事実に基づいたものとし、顧客が合理的な判断を下せるよう透明性を保つことが、長期的な信頼関係構築において不可欠です。

注意点 リスクの内容 対策
景品表示法違反 架空の通常価格表示による行政処分 実際の販売実績に基づく価格のみを表示する
相場との乖離 顧客の不信感・信頼低下 業界相場から大きく離れないアンカーを設定する
情報リテラシーの高い顧客 価格アンカリングが効きにくい ROI・実績・付加価値など価格以外のアンカーを併用する
倫理的問題 虚偽情報による長期的なブランド毀損 事実に基づく透明性のある情報提示を徹底する

参考:アナグラム「情報の見せ方で印象が変わる!『アンカリング効果』のマーケティング活用法」

BtoBマーケティングで併用したい行動経済学テクニック

アンカリング効果は単独でも強力ですが、他の行動経済学テクニックと組み合わせることで、さらに効果を高めることができます。BtoBマーケティングで特に相性の良いテクニックを紹介します。

テクニック 概要 アンカリングとの併用例
プロスペクト理論(損失回避バイアス) 人は「得をすること」よりも「損をすること」に約2倍強い心理的反応を示す 「導入しないことで年間○○万円の損失が発生」と損失額をアンカーとして提示し、導入意欲を後押しする
松竹梅の法則(極端回避性) 3つの選択肢を提示すると中間を選びやすい 最上位プランの価格でアンカーを設定しつつ、中間プランを選ばせる
ザイオンス効果(単純接触効果) 接触頻度が高いものに対して好意を持ちやすい メールやリターゲティング広告でアンカーとなる数値に繰り返し触れさせ、商談前にアンカーを形成する
コミットメントと一貫性 一度下した決定に一貫した行動をとろうとする セミナーで小さな同意を得た上でアンカリングを行い、商談・成約へとつなげる

参考:創業手帳「営業で役立つ11の心理学効果|BtoB営業の各場面で活かせる実践ポイント」

まとめ:BtoBマーケティングにおけるアンカリング効果の活用ポイント

アンカリング効果は、BtoBマーケティングの成果を高めるために非常に有効な心理メカニズムです。本記事の要点を整理します。

  1. アンカリング効果の本質——最初に提示された情報が、その後の判断基準となる認知バイアス。行動経済学の研究により、その効果は学術的にも実証されている。
  2. BtoBで有効な理由——比較検討が前提であること、高額・長期の意思決定であること、複数のDMUが関与することが、アンカリング効果の有効性を高めている。
  3. 活用シーンの広さ——料金ページ、営業商談、セミナー、LP、提案資料など、BtoBマーケティングのあらゆるタッチポイントで実践できる。
  4. 4ステップで導入——競合調査 → 自社分析 → アンカー設計 → 効果検証のPDCAで継続的に改善する。
  5. リスクへの配慮——景品表示法への抵触、相場を逸脱したアンカー設定、倫理面の問題には十分注意し、事実に基づく透明性のある情報提示を徹底する。

アンカリング効果は「顧客を騙す」テクニックではなく、自社サービスの価値を正しく伝えるための「情報の見せ方の最適化」です。プロスペクト理論や松竹梅の法則など他のテクニックとも組み合わせながら、ぜひ自社のBtoBマーケティング施策に取り入れてみてください。

参考サイト

編集者:

中川 晃次

再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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