継続率(リテンション)を上げる方法|BtoBの関係維持のポイント

    「継続率を上げてほしい」。期初にそう言われて最初につまずくのが、数字の出し方です。営業部は取引社数で数え、経理は売上金額で数えます。同じ言葉なのに、出てくる数字は10ポイント以上ずれることがあります。

    議論が噛み合わないまま施策を決めると、効果の判定もできません。

    この記事では、継続率とチャーンレートの計算式を整理したうえで、BtoB企業が取るべき打ち手を4つに絞って解説します。90日で回し始める手順と、置くべきKPIまで扱います。読み終えたときに、追う指標を1つ選び、最初に着手する打ち手を決められる状態を目指します。

    継続率(リテンション)とは|チャーンレートとの計算式の違い

    継続率とは、期間の開始時点にいた顧客のうち、期末まで残っている割合を指します。リテンション(=顧客との関係を維持する取り組み)も、指標としてはほぼ同義で使われます。

    チャーンレート(=解約率)は、その裏返しです。同じ母集団を同じ期間で測る限り、両者の合計は100%になります。

    ずれが生じるのは、この「同じ母集団」の部分です。期中に増えた新規を分母に入れるかで数字は変わります。一般的には期首の顧客だけを数えます。

    よく使われる5つの指標を、計算式とあわせて整理しました。

    指標 計算式 何を見る指標か 注意点
    顧客数ベースの継続率(ロゴリテンション) 期末に残っている期首顧客数 ÷ 期首顧客数 × 100 取引先の数を維持できているか 大口も小口も同じ1社として数える
    顧客数ベースのチャーンレート(ロゴチャーン) 期中に解約した期首顧客数 ÷ 期首顧客数 × 100 何社が離れたか 期中の新規は分母に入れない
    金額ベースのチャーンレート(レベニューチャーン) 失った定期収益 ÷ 期首の定期収益 × 100 収益への打撃の大きさ 解約だけでなく減額分も含める
    GRR(売上維持率) (期首の定期収益 − 解約分 − 減額分)÷ 期首の定期収益 × 100 失わずに守れた割合 増額を含めないため上限は100%
    NRR(売上継続率) (期首の定期収益 − 解約分 − 減額分 + 増額分)÷ 期首の定期収益 × 100 既存顧客からの収益が伸びたか 100%を超えうる

    GRRとNRRの式は、StripeによるNRRの解説が明快です。社内の定義を決める下敷きに使えます。

    顧客数で測るか、金額で測るかで数字は変わる

    同じ1年でも、数え方を変えると景色が変わります。

    取引先が100社ある卸売業で、1年間に3社が離れたとします。顧客数ベースの継続率は 97 ÷ 100 × 100 で97%です。ところが、その3社が年間売上の3割を占める大口なら、金額ベースの継続率は70%まで落ちます。

    どちらが正しいという話ではありません。両方を並べて初めて「社数は守れているが金額が抜けている」と分かります。

    GRRとNRR、どちらを目標に置くか

    役割が違うため、片方だけを追うと判断を誤ります。

    • GRR:既存収益をどれだけ失わずに守れたかを見る。増額を含まないので、関係維持の巧拙が出ます
    • NRR:アップセルや追加購入を含めた収益の増減を見る。100%を超えれば、新規獲得がゼロでも売上は伸びます

    NRRだけを目標に置くと、少数の大口の拡大が、多数の小口の離反を覆い隠します。

    関係維持の力を測るならGRR、事業の伸びを測るならNRR。カテゴリの理解を先に固めたい方は、カスタマーポータルとは?もあわせてご覧ください。

    なぜBtoBほど継続率が効くのか

    継続率の改善が利益に効くことは、古くから指摘されてきました。

    Bain & Company の Fred Reichheld は、金融サービス業を対象に効果を示しています。顧客継続率が5%向上すると、利益は25%以上増加するという指摘です(Bain & Company『Prescription for Cutting Costs』)。業種を限定した数字ですが、維持の改善が利益に効く度合いを示します。

    Harvard Business Review は、新規獲得のコストを既存顧客の維持の5倍から25倍と紹介しています(HBR『The Value of Keeping the Right Customers』2014年)。幅が大きいのは、調査と業種によって差が出るためです。

    BtoBでは、この差がさらに開きます。1社あたりの取引額が大きく、契約期間も長いためです。年間300万円の取引先を1社失えば、3年で900万円分の機会を失います。

    BtoBの継続率が落ちる3つの構造

    原因を細かく分解する前に、BtoB特有の構造を押さえると打ち手が選びやすくなります。

    1. 接点が営業担当者個人に紐づいている:関係は担当者どうしの間に蓄積します。異動や退職があると、履歴ごと切れます
    2. 契約者と利用者が別人:決裁した部長は満足していても、現場が使いこなせていない。更新の直前になって表面化します
    3. 提供している価値が可視化されていない:使われていても、顧客側に実感が残りません。更新交渉が価格の話に寄ります

    3つとも、顧客側の不満というより、こちら側の接点設計の問題です。

    継続率を上げる4つの打ち手

    打ち手は無数にあるように見えますが、BtoBでは4つの型に整理できます。契約直後、日常、更新前、そして関係の広がり。この軸で自社に足りていない領域が見えます。

    継続率の打ち手は、この4つに整理できる BtoBの継続率を上げる打ち手を4つに分類した図。立ち上げを設計するは最初の90日で定着させる。自己解決を用意するは24時間いつでも引き出せる。利用実績を顧客に返すは更新前に価値を数字で示す。関係を複線化するは1社1名の接点に依存しない。 立ち上げを設計する 最初の90日で定着させる 自己解決を用意する 24時間いつでも引き出せる 利用実績を顧客に返す 更新前に価値を数字で示す 関係を複線化する 1社1名の接点に依存しない
    図1:継続率の打ち手は、この4つに整理できる

    最初の90日で「使える状態」まで持っていく

    継続率に最も効くのは、契約直後の立ち上げです。

    オンボーディング(=導入初期に、顧客が自力で使いこなせる状態まで支援すること)が済まない顧客は、元の運用に戻ります。取引先の設計担当が最初の1か月で図面データの取得手順を覚えなければ、以後は電話とメールに逆戻りです。

    ただし、手厚い個別対応はスケールしません。初回説明を動画とマニュアルに落とし込み、例外だけを個別に扱います。

    24時間の自己解決手段を用意する

    顧客は、担当者に聞くより自分で調べたいと考えています。

    Gartner の調査では、B2Bバイヤーの67%が営業担当者を介さない購買体験を選好すると報告されています(Gartnerの調査リリース)。2025年8月から9月に、B2Bバイヤー646名を対象として実施されたものです。購買場面の数字ですが、購入後の関係維持でも同じ傾向が働きます。

    FAQ、マニュアル、仕様書のダウンロードを、顧客が自分で引き出せる状態にしておく。夜間でも取引先がデータを取得でき、こちらの営業時間に縛られません。ただし置くだけでは検索されず、担当を決めないと陳腐化します。具体策は問い合わせ対応の工数を削減する方法で整理しています。

    「使われている実績」を顧客側に返す

    更新の場で価値を証明できないと、議論は価格に収束します。

    四半期に1度、利用実績をレポートとして顧客に返します。ログイン数、資料のダウンロード件数、自己解決された問い合わせ件数。顧客向けのポータルがあれば自動で溜まるデータです。tovira の分析・通知機能も、行動データの蓄積を前提にしています。

    ただし、数字を出すこと自体が目的になりがちです。「ダウンロード120件」ではなく「御社の設計部門が120回、図面を待たずに着手できました」と、顧客の業務に翻訳して伝えます。

    4つ目は関係の複線化です。1社1名の接点しかないと、その1名の異動で関係が切れます。購買、設計、品質保証など複数部門に広げれば、担当交代の影響を吸収できます。人力で増やすと負荷が膨らむため、Web上の共通接点に集約します。

    4つの打ち手を自社の顧客接点に当てはめるところから。tovira では、BtoBの顧客接点の設計と運用をまとめた資料をご用意しています。資料をダウンロードする

    打ち手を回す手順|90日の進め方

    4つを同時に始めると、どれも中途半端に終わります。

    90日を1サイクルとして、次の順で進めます。

    1. STEP1 定義を決める(2週間/経営企画・カスタマーサクセス):顧客数ベースか金額ベースか、GRRかNRRかを決め、社内文書に明記します
    2. STEP2 現状値を出す(2週間/情報システム):過去2年分を同じ定義で再計算します。トレンドがないと改善を判定できません
    3. STEP3 1つだけ試す(6週間/カスタマーサクセス・営業):最も抜けている領域を1つ選び、対象も20社程度に絞ります
    4. STEP4 仕組みに落とす(4週間/カスタマーサクセス):善意ではなく運用手順に落とし、誰がいつ何をするかを文書化します
    継続率の改善は、この4ステップで回す 継続率改善の手順を左から右へ示した図。ステップ1は指標の定義を決める。ステップ2は現状値を出す。ステップ3は打ち手を1つだけ試す。ステップ4は仕組みに落とす。 1 定義を決める 2 現状値を出す 3 1つだけ試す 4 仕組みに落とす
    図2:継続率の改善は、この4ステップで回す

    STEP2でつまずく企業が少なくありません。契約データ、利用データ、請求データが別のシステムに分かれ、同じ顧客IDで突き合わせられないためです。

    継続率のKPIをどこに置くか

    いきなり「継続率95%」という目標を掲げると、四半期が終わるまで打ち手の良し悪しが分かりません。先行指標と結果指標を分けて置きます。

    指標 種別 測定頻度 主担当
    オンボーディング完了率 先行 週次 カスタマーサクセス
    月次アクティブ企業率 先行 週次 カスタマーサクセス
    自己解決率(問い合わせ件数 ÷ ログイン企業数) 先行 月次 サポート
    GRR 結果 四半期 経営企画
    NRR 結果 四半期 経営企画

    目標値は業種と契約形態で大きく変わります。他社のベンチマークより、自社の前年同期を基準に置くほうが判断しやすくなります。可視化しても運用に組み込まれなければ数字は動きません。この点はデジタル顧客体験(DCX)とは?でも整理しています。

    よくある質問

    継続率は何%あればよいですか

    業種と契約形態で大きく異なるため、共通の目安は置けません。まず自社の前年同期を基準にします。他社の数値を参照するなら、計算式と対象期間が同じかを確認します。

    チャーンレートはいつ時点で計算しますか

    月次なら、期首の顧客数または収益を分母に置き、その月に失ったぶんを分子にします。期中の新規は原則として翌月から分母に加えます。解約の申し出日で数えるか契約終了日で数えるかも、先に決めておきます。

    BtoCとBtoBで継続率の考え方は違いますか

    違います。BtoCは1契約1利用者が基本ですが、BtoBは1契約に複数の利用者がぶら下がります。契約が続いていても現場が使っていない状態が起こるため、企業単位の継続率と個人単位の利用状況を分けて見る必要があります。

    継続率の改善は誰が担当すべきですか

    専任のカスタマーサクセス部門があれば、そこが主担当です。ない場合は営業企画かマーケティングが指標を持ち、営業とサポートを巻き込みます。数値の算出は情報システム部門と分担します。

    まとめ|継続率は、定義を揃えてから上げる

    継続率を上げる作業は、施策探しからは始まりません。社内で数え方を1つに決めるところからです。この記事で扱った流れを整理します。

    1. 顧客数ベースと金額ベース、GRRとNRRから、追う指標を決める
    2. 過去2年分を同じ定義で再計算し、現状値を出す
    3. 立ち上げ、自己解決、実績の可視化、関係の複線化の4つから、最も抜けている1つを選ぶ
    4. 20社程度で試し、仕組みに落としてから対象を広げる

    BtoBの継続率は、担当者個人の努力より接点の設計に左右されます。担当が代わっても、夜間でも、顧客が必要な情報にたどり着けるか。そこが分かれ目になります。

    tovira のカスタマーポータルは、顧客が自分で情報を引き出せる接点と、誰が何を見たかという実績を1つの基盤に集めます。自社の取引先に合うかは、実際の画面でご確認ください。デモを依頼する

    出典

    • Bain & Company『Prescription for Cutting Costs』(Fred Reichheld) media.bain.com(参照:2026-07-26)
    • Harvard Business Review『The Value of Keeping the Right Customers』(Amy Gallo、2014年10月29日) hbr.org(参照:2026-07-26)
    • Gartner『Gartner Sales Survey Finds 67% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Experience』(2026年3月9日) gartner.com(参照:2026-07-26)
    • Stripe『Net revenue retention (NRR) for SaaS businesses』 stripe.com(参照:2026-07-26)
    最終更新日:2026-08-03
    編集者:

    中川 晃次

    再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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