BtoBマーケティングにおけるカテゴリーエントリーポイント(CEPs)とは?「想起される企業」になるための実践ガイド

    BtoB Marketing × Brand Strategy

    顧客の「思い出す瞬間」を設計する
    カテゴリーエントリーポイント(CEPs)

    施策を打っているのに指名検索が増えない——その原因は、顧客の頭の中で「想起されていない」ことにあります。

    カテゴリーエントリーポイント(CEPs)は、顧客がサービスの検討を始める「きっかけ」となる状況や課題のことです。BtoCで生まれた概念ですが、複数人の意思決定やリスク回避購買が特徴のBtoBにこそ大きなインパクトをもたらします。本インフォグラフィックでは、非マーケターの方にも分かりやすく、CEPsの全体像と実践方法を解説します。

    理論的背景

    CEPsの学術的な起源

    CEPsの概念は、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所の研究に基づいています。ブランド成長は「差別化」ではなく「想起される入口の数と幅」によって決まるという実証知見がベースです。

    Byron Sharp 著

    『How Brands Grow』(邦題:ブランディングの科学)

    書籍情報を見る

    Jenni Romaniuk 著

    『Building Distinctive Brand Assets』— CEPの体系的な管理手法を解説

    書籍情報を見る

    芹澤 連 著

    『戦略ごっこ』『"未"顧客理解』(日経BP)— 日本でCEPsを広めた著書

    書籍情報を見る

    CONCEPT

    そもそもCEPsとは?

    顧客がサービスを検討し始める「きっかけ」となる、業務上の状況・目的・課題のこと

    状況

    「属人化した業務が限界にきた」「既存ツールのサポートが終了する」など、業務で起きる変化

    目的

    「業務を効率化したい」「コスト削減を求められている」など、達成したいゴール

    課題

    「情報共有が煩雑」「上司からDXを指示された」など、解決を迫られている問題

    従来のマーケティングとの違い

    ペルソナ / STP

    「誰に」売るか

    VS

    CEPs

    「いつ」思い出されるか

    ※ CEPsは既存フレームワークと対立するものではなく「補完」する関係です

    WHY IT MATTERS

    なぜBtoBでCEPsが重要なのか

    BtoB特有の購買行動が、CEPsの重要性をBtoC以上に高めています

    複数人の意思決定

    現場担当者、上長、情シス、経理、役員——BtoBでは多くの人が関与します。社内の検討会議で最初に名前が挙がるブランドは、議論のアンカー(出発点)になり、後から候補に加わった企業が逆転するのは困難です。

    つまり

    「あの会社にしよう」と最初に名前が出ること = 受注への最短ルート

    リスク回避購買

    BtoBの意思決定者の最大の関心事は「失敗しないこと」。論理的に最も優れた選択肢よりも、「リスクが少なそう」という安心感で選ばれる傾向があります。

    つまり

    繰り返し想起されるブランド = 「安心感」の蓄積で圧倒的に有利

    長い検討期間

    BtoBの検討は数ヶ月〜年単位。最初に認知された時点で予算やタイミングが合わないことも多く、検討再開時に再び想起されるかが勝負。一度きりのリード獲得では不十分です。

    つまり

    「忘れられない仕組み」= 中長期の想起設計が必要

    55%

    第一想起した商品をそのまま導入

    WACULの調査によると、BtoBの購買担当者の半数以上が、最初に思い浮かべたサービスをそのまま導入しています。

    出典:WACUL調査

    KEY DISTINCTION

    最大の落とし穴:「入口」と「接点」の混同

    CEPsを正しく使うために、この違いの理解が不可欠です

    TOUCHPOINT

    接点(タッチポイント)

    顧客とブランドが「出会う場」

    • 展示会でブースを見た
    • ウェビナーに参加した
    • Web広告をクリックした
    • 営業から電話があった

    CATEGORY ENTRY POINT

    入口(CEP)

    接点の「手前」にある業務上の課題・状況

    • 属人化した業務が限界にきている
    • 上司からDX推進を指示された
    • 情報共有の煩雑さに耐えられない
    • 既存ツールのサポートが終了する

    正しい設計順序

    STEP 1

    入口を固定

    STEP 2

    メッセージ設計

    STEP 3

    接点を選ぶ

    HOW TO FIND

    CEPsを見つける4つのステップ

    1

    顧客インタビュー

    既存顧客に「なぜこのカテゴリーの検討が始まったか」を聞きます。ブランド選択の理由ではなく、カテゴリーへの入口を探ることがポイントです。

    聞くべき質問例

    • 「検討し始めたきっかけは何でしたか?」
    • 「社内でどんな課題が発生しましたか?」
    • 「業務のどこに一番ストレスを感じていましたか?」
    2

    営業・CS部門の現場知を活用

    営業やCSは顧客の「困った瞬間」を日常的に目撃しています。「お客様が最も反応する困りごとは何ですか?」「商談で一番響く課題の話は?」と社内で聞いてみましょう。

    3

    生成AIで仮説を網羅的に洗い出し

    「このカテゴリーの検討が始まるきっかけとなる業務上の状況をリストアップして」と生成AIに指示し、社内の盲点を発見します。ただし出力は仮説なので、必ずステップ1・2で検証します。

    4

    5W1Hで構造化する

    候補を整理し、チームで議論する土台にします。

    When

    期末 / 組織改編後

    Where

    会議で課題指摘

    Who

    新任部長 / 経営企画

    What

    効率化 / コスト削減

    Why

    法改正 / 契約更新

    How

    予算制約 / 短納期

    PRIORITIZE

    勝てるCEPを1つ選ぶ — 3つの評価軸

    広げすぎるとすべてが中途半端に。まず1つで確固たるポジションを築きます。

    市場規模

    そのCEPが発生する頻度と対象の広さは十分か?該当する企業・担当者の数で判断します。

    競合の想起状況

    強い競合が第一想起を持つCEPは避け、想起が弱い・空白のCEPを狙います。

    自社との整合性

    自社の強み・実績と自然につながるか?無理な入口では想起されても選ばれません。

    市場が大きく × 競合が弱く × 自社と合致する CEP を最優先で攻略

    EXECUTION

    CEPsを施策に落とし込む

    「機能訴求」から「課題場面訴求」へ — 4つの施策領域で転換する

    コンテンツマーケティング

    従来(機能訴求型)

    「プロジェクト管理ツールの選び方」

    CEPs起点(課題場面型)

    「プロジェクトの進捗が見えなくなったとき、まず何をすべきか」

    ウェビナー・セミナー

    従来(ツール紹介型)

    「〇〇ツールの活用事例セミナー」

    CEPs起点(課題場面型)

    「新任マネージャーが直面する"チームの情報共有問題"を解決する方法」

    広告メッセージ

    機能や価格ではなく「こんな状況で困っていませんか?」を起点に。

    好事例:SmartHR

    「ハンコを押すために出社した」— 人事担当者のCEP(紙業務のストレス)を的確に言語化し、圧倒的な共感と想起を獲得。

    営業資料・提案書

    冒頭で「あ、まさにうちの状況だ」と感じさせるストーリーを。「弊社の強み」から始めるのではなく、「お客様の状況」から始めます。

    CASE STUDIES

    BtoB企業のCEP活用事例

    Dropbox

    ファイル共有 チームコラボ

    「大容量ファイルを共有したいとき」から「チームでコラボレーションしたいとき」へCEPを拡張。

    Adobe Acrobat

    PDF閲覧 電子署名・業務起点

    受動的な「ビューアー」から、「契約書に電子署名したいとき」という業務の起点へ転換。

    SmartHR

    人事労務効率化 ハンコのために出社

    抽象的な課題ではなく、誰もが共感できる具体的な業務シーンをCEPに設定した好例。

    DX支援SaaS

    DX推進支援 DXって何から?

    「DX 初めて」「DX 何から」の検索クエリをコンテンツで受け止め、問い合わせ大幅増。

    MEASUREMENT

    効果を測る4つの指標

    純粋想起率

    「〇〇と聞いて思い浮かぶ企業は?」のアンケート調査。半年〜1年ごとに定点観測。

    指名検索数

    Googleサーチコンソールでブランド名の検索推移を月次モニタリング。想起向上の代理指標。

    CEP別想起率

    CEPごとに想起を計測し、強い入口と弱い入口を可視化。リソース配分を最適化。

    問い合わせ経路

    商談時に「何がきっかけで知りましたか?」をヒアリングし、CEPとの対応を随時確認。

    PITFALLS

    避けるべき5つの失敗

    CEPsを広げすぎてメッセージが分散

    まず勝てるCEPを1つに絞り、確固たるポジションを築いてから横展開。

    「入口」と「接点」を混同する

    「SNSで想起を取る」は接点の話。入口は業務上の状況・課題です。

    短期KPIに引っ張られる

    四半期のMQL数だけで評価すると施策が打ち切りに。想起の指標を別途設定。

    CEPsを一度見つけて終わりにする

    市場環境は変化します。定期的に検証・更新するサイクルを回すこと。

    既存フレームワークを捨ててしまう

    CEPsはペルソナやABMと対立しません。「誰に×どんな状況で×どのチャネルで」の掛け合わせで精度UP。

    TAKE ACTION

    明日から始める3つのアクション

    01

    営業チームに聞く

    「お客様が最も反応する"困った状況"は何?」と聞き、CEP候補を3〜5つリストアップする。

    02

    コンテンツを棚卸し

    既存の記事・ホワイトペーパー・ウェビナーが「どのCEPに対応しているか」をマッピングする。

    03

    指名検索数を把握

    Googleサーチコンソールでブランド名の検索推移を確認。CEPs戦略のベースラインとする。

    「広告も出している。ウェビナーも開催している。コンテンツも量産している。なのに、指名検索も問い合わせも増えない——」

    BtoBマーケティングの現場で、こうした行き詰まりを感じている方は少なくないはずです。

    その原因は、施策の質や量ではなく、もっと手前にあるかもしれません。顧客の頭の中で、課題が発生した瞬間に自社が「思い出されていない」という構造的な問題です。

    この課題を解決するフレームワークとして、今BtoBマーケティングの世界で注目を集めているのがカテゴリーエントリーポイント(CEPs:Category Entry Points)です。

    本記事では、CEPsの基本概念を簡潔に押さえたうえで、BtoB特有の購買行動を踏まえたCEPsの見つけ方、設計方法、施策への落とし込み、効果測定までを体系的に解説します。

    カテゴリーエントリーポイント(CEPs)とは何か

    カテゴリーエントリーポイント(CEPs)とは、顧客が特定のカテゴリーの商品やサービスの検討を始める「きっかけ」となる状況・目的・課題のことです。

    この概念は、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ教授やジェニー・ロマニウク教授が提唱したもので、日本では芹澤連氏の著書『未顧客理解』『戦略ごっこ』(ともに日経BP)などを通じて広く知られるようになりました。

    CEPsはメンタルアベイラビリティ(心的利用可能性)と深く結びついています。メンタルアベイラビリティとは、顧客がカテゴリーを想起した瞬間に、どれだけ容易にそのブランドを思い出せるかを示す概念です。

    CEPsとメンタルアベイラビリティの関係 CEP① 属人化が限界にきた CEP② 上司からDX指示が出た CEP③ 既存ツールの契約終了 メンタル アベイラビリティ (想起されやすさ) 第一想起 ブランド獲得 「あの会社にしよう」 と最初に名前が出る CEPsの数と結びつきの強さが、メンタルアベイラビリティを高め、第一想起の獲得につながる

    ポイントは、CEPsは「誰に売るか(ペルソナ)」ではなく、「どんな状況で思い出されるか」に焦点を当てている点です。従来のペルソナやSTPのフレームワークを否定するものではなく、それらを補完する新しい視点として位置づけられます。

    CEPsの出発点:強いブランドほど「入口」を複数持っている。入口が複数あると、想起される機会が複数の状況に広がる。

    出典:トライバルメディアハウス「カテゴリーエントリーポイントとは?」

    なぜBtoBマーケティングでCEPsが重要なのか

    CEPsはBtoC文脈で語られることが多い概念ですが、実はBtoBの購買行動にこそ大きなインパクトをもたらします。その理由は、BtoB特有の意思決定構造にあります。

    1. 複数人による意思決定で「最初に名前が出る」ことの威力

    BtoBの購買では、現場担当者、上長、情報システム部門、経理、役員など、複数のステークホルダーが関与します。それぞれの立場から異なる評価軸で判断するため、議論はしばしば平行線をたどります。

    こうした状況で「あの会社にしよう」と最初に名前が挙がるブランドは、議論の出発点(アンカー)になります。後から候補に加わった企業が逆転するのは容易ではありません。つまり、社内の検討会議で第一想起を獲得しているかどうかが、受注を左右するのです。

    2. 「失敗しなさそう」で選ばれるリスク回避購買

    BtoBの意思決定者にとって最大の関心事は「失敗しないこと」です。論理的に最も優れた選択肢よりも、感覚的・情緒的に「リスクが少なそう」と感じられるブランドが選ばれる傾向があります。

    ある調査では、営業担当者に訪問してほしい理由として「誠意」「安心感」「上司の納得」といった非合理的な理由が上位に挙がっています。CEPsを通じて繰り返し想起されるブランドは、この「安心感」の獲得において圧倒的に有利です。

    3. 長い検討期間で「忘れられない」仕組みが必要

    BtoBの検討期間は数ヶ月から年単位に及ぶことも珍しくありません。最初に認知された時点では予算がなかったり、タイミングが合わなかったりするケースも多く、検討再開のタイミングで再び想起されるかどうかが勝負になります。

    一度きりのリード獲得では不十分で、継続的に「思い出される状態」を維持するための仕組みづくりが必要です。

    4. データが示す第一想起の影響力

    WACULが実施した調査によれば、BtoBの購買担当者の55%が、第一想起した商品をそのまま導入しているという結果が出ています。

    出典:WACUL「55%が第一想起した商品を導入。BtoBにおける純粋想起の実態調査」

    また、第一想起ブランドは比較検討の対象ではなく、選択を正当化するための情報を探される存在になるとも指摘されています。つまり、第一想起を獲得できれば、競合との価格競争や機能比較に巻き込まれにくくなるのです。

    BtoBにおける「入口」と「接点」の違いを理解する

    CEPsをBtoBで活用する際に最も起きやすい誤解が、「入口(CEP)」と「接点(タッチポイント)」の混同です。この違いを正しく理解しないと、施策設計が根本から崩れてしまいます。

    接点(タッチポイント)とは、顧客とブランドが出会う場のことです。展示会、ウェビナー、SNS、広告、営業メール——これらはすべて接点です。

    入口(CEP)とは、接点の「手前」にあるものです。顧客の業務の中で発生する課題・状況・制約が入口にあたります。

    接点(タッチポイント) 入口(CEP)
    展示会でブースを見た 属人化した業務が限界にきている
    ウェビナーに参加した 上司からDX推進を指示された
    Web広告をクリックした 情報共有の煩雑さに耐えられなくなった
    営業から電話があった 既存ツールのサポートが終了する

    接点をいくら増やしても、その手前にある「入口」を押さえていなければ、想起にはつながりません。まず入口を固定し、その入口に対して接点を揃えるという順序で設計することが重要です。

    「入口」と「接点」の設計順序 STEP 1 入口(CEP)を固定 例: 「属人化した業務が 限界にきている」 という業務上の課題 ※チャネルではなく状況 STEP 2 メッセージを統一 コンテンツのテーマ 広告のコピー セミナーの切り口 営業の提案ストーリー ※すべて入口に一貫させる STEP 3 接点を配置 展示会 ウェビナー Web広告 SNS・オウンドメディア ※入口に合った場で展開 入口が決まれば、揃えるべき接点・メッセージ・事例の出し方が明確になる

    入口が決まると、次に揃えるべきものも明確になります。提案の論点、事例の見せ方、コンテンツのテーマ、セミナーの切り口——すべてが入口に向かって一貫性を持つようになります。

    「SNSで想起を取る」「動画で想起を取る」は入口ではなく接点です。入口は状況条件であり、入口が接点化すると設計が崩れます。

    出典:トライバルメディアハウス「カテゴリーエントリーポイントとは?」

    BtoBでのCEPs発見・設計の具体的ステップ

    ここからは、自社のBtoBビジネスにおけるCEPsを実際に見つけ、設計するためのステップを解説します。

    ステップ1:顧客の「検討が始まったきっかけ」を掘り起こす

    CEPsの発見において最も重要な情報源は、顧客自身の声です。既存顧客や商談中の見込み顧客に対して、次のような問いを投げかけます。

    • 「そもそも、このカテゴリーのサービスを検討し始めたきっかけは何でしたか?」
    • 「社内でどんな課題が発生して、情報収集を始めましたか?」
    • 「検討を始める前、業務のどこに一番ストレスを感じていましたか?」

    ポイントは、「なぜ弊社を選んだか」ではなく、「なぜこのカテゴリーの検討が始まったか」を聞くことです。ブランド選択の理由ではなく、カテゴリーへの入口を探ります。

    インタビュー手法としては、1対1のデプスインタビューやナラティブ調査が適しています。「その時の状況を、ストーリーとして教えてください」と促すことで、表面的な回答の奥にある真の入口が見えてきます。

    ステップ2:営業・CS部門の「現場知」を活用する

    営業やカスタマーサクセスのメンバーは、顧客の「困った瞬間」を日常的に目撃しています。彼らが持つ情報は、CEPs発見の宝庫です。次のような問いで社内ヒアリングを行います。

    • 「お客様から最初に相談される"よくある困りごと"は何ですか?」
    • 「商談で最も響くのは、どんな課題の話をしたときですか?」
    • 「失注した案件では、お客様はどんな状況で検討を始めていましたか?」

    営業が感覚的に「この話をすると刺さる」と知っている情報を、CEPsという枠組みで構造化する作業です。

    ステップ3:生成AIを使ったCEP仮説の網羅的な洗い出し

    近年は、生成AIを活用してCEPsの仮説を効率的に洗い出す手法も注目されています。自社のサービスカテゴリーや顧客の業種・職種を入力し、「このカテゴリーの検討が始まるきっかけとなる業務上の状況を、できるだけ多くリストアップしてください」と指示することで、社内では盲点になっていた入口の候補を広く抽出できます。

    ただし、生成AIの出力はあくまで仮説です。必ず顧客インタビューや営業ヒアリングで検証するプロセスを組み合わせてください。

    出典:コレクシア「【2025年最新】カテゴリーエントリーポイント(CEP)完全ガイド」

    ステップ4:5W1Hフレームワークで整理する

    洗い出したCEP候補を、5W1Hの切り口で整理すると、漏れなく構造化できます。

    切り口 問い BtoBでの例
    When どんなタイミングで? 期末の予算消化時、組織改編の直後、新任マネージャーの着任時
    Where どんな場面で? 社内会議で課題が指摘されたとき、他部署から苦情が来たとき
    Who 誰が起点で? 現場の担当者、新任の部長、経営企画部
    What 何をしたくて? 業務を効率化したい、属人化を解消したい、コストを削減したい
    Why なぜ今? 既存ツールの契約更新期、法改正への対応、競合の動き
    How どんな制約の中で? 予算が限られている、社内にIT人材がいない、短期間で導入したい

    この表をチームで共有し、優先すべきCEPsを議論する土台にします。

    CEPsの優先順位をつける方法

    CEPsは広げすぎると、メッセージが分散し、どの入口でも中途半端な想起しか獲得できなくなります。まずは「勝てるCEPを1つ選んで固定する」ことが鉄則です。

    優先順位をつけるための評価軸は、主に3つあります。

    CEP優先順位の3つの評価軸 ① 市場規模 そのCEPに該当する 企業・担当者の数 発生頻度と対象の広さを 自社リソースと照らして評価 ② 競合の想起状況 そのCEPで競合が どれだけ想起されているか 競合が弱い or 不在のCEPは 少ないリソースでも勝てる ③ 自社との整合性 自社の強み・実績と 自然につながるか 無理のある入口は 想起されても選ばれない 最優先CEP = 市場が十分に大きく × 競合の想起が弱く × 自社の強みと合致 まず1つのCEPで確固たるポジションを築き、横展開はその後

    3つの軸で評価し、「市場が十分に大きく、競合の想起が弱く、自社の強みと合致するCEP」を最優先で攻略します。横展開はその後です。

    CEPsをBtoBマーケティング施策に落とし込む

    CEPsを特定し、優先順位をつけたら、次はそれを具体的な施策に反映していきます。ここでは代表的な施策領域ごとに、CEPs起点での設計方法を解説します。

    コンテンツマーケティング

    従来のコンテンツは「自社サービスの機能紹介」や「業界トレンドの解説」が中心になりがちです。CEPs起点のコンテンツでは、顧客の「困った瞬間」から逆算してテーマを設計します。

    例えば、プロジェクト管理ツールを提供している企業であれば、次のような転換が考えられます。

    従来のテーマ設計 CEPs起点のテーマ設計
    プロジェクト管理ツールの選び方 プロジェクトの進捗が見えなくなったとき、まず何をすべきか
    〇〇ツールの機能一覧と料金プラン 「誰が何をやっているか分からない」を解消した3社の事例
    タスク管理の基本ガイド 新任マネージャーが最初の1ヶ月でチームの業務を可視化する方法

    CEPs起点のテーマは、顧客がまさにその状況に直面している瞬間に検索する可能性が高く、その場面で自社が想起されるきっかけになります。

    ホワイトペーパーやeBookも同様に、機能カタログ型ではなく、特定のCEPに対応した課題解決型に設計し直すことで、ダウンロード後の商談化率が向上します。

    ウェビナー・セミナー

    ウェビナーのテーマ設計も、CEPs起点に変えることで集客の質が変わります。

    • 従来:「〇〇ツールの活用事例セミナー」
    • CEPs起点:「新任マネージャーが直面する"チームの情報共有問題"を解決する方法」

    後者のタイトルは、特定のCEP(新任マネージャーの着任 × 情報共有の課題発生)に直接語りかけています。参加者はまさにその課題を抱えている可能性が高く、セミナー後の商談につながりやすくなります。

    広告メッセージ

    BtoBの広告(タクシー広告、Web広告、SNS広告等)でも、機能訴求からCEP訴求への転換が効果的です。

    有名な例が、SmartHRのテレビCMです。「ハンコを押すために出社した」というキャッチコピーは、ターゲット(人事・労務担当者)のCEP——紙の手続きのために出社を強いられるストレス——を的確に言語化しています。

    機能や価格ではなく、「こんな状況で困っていませんか?」という問いかけをメッセージの起点にすることで、該当するCEPに直面している人の記憶に残ります。

    BtoBにおけるマス広告(タクシー広告やテレビCM)の役割は、即時のリード獲得ではなく、中長期的な想起の蓄積です。繰り返し接触することで、顧客が将来CEPに直面したときに「あの会社があったな」と思い出される確率を上げていきます。

    出典:たきぐち「BtoBにおけるメンタルアベイラビリティ向上の実践」

    営業資料・提案書

    営業の現場でも、CEPs起点の提案ストーリーは効果を発揮します。

    1. 従来の構成:「弊社の強み → 機能一覧 → 導入効果 → 価格」
    2. CEPs起点の構成:「お客様が直面している状況の描写 → その状況が放置された場合のリスク → 解決のアプローチ → 弊社が選ばれる理由」

    冒頭で「あ、まさにうちの状況だ」と感じてもらえれば、その後の提案内容への関心度が格段に上がります。

    BtoB企業のCEP活用事例

    ここでは、CEPsの考え方をBtoBで実践している企業の事例を紹介します。

    Dropbox:CEPの拡張で新たな想起を獲得

    Dropboxは従来、「大容量ファイルを共有したいとき」というCEPで広く想起されていました。しかし、リモートワークの普及に伴い、「チームでリアルタイムにコラボレーションしたいとき」「ドキュメントのレビューをしてもらいたいとき」という新しいCEPにブランドを拡張するキャンペーンを展開しています。

    これにより、単なるファイル共有ツールではなく、チームの共同作業の起点として想起されるポジションを獲得しつつあります。

    出典:鈴木 敬「カテゴリーエントリーポイント(CEP)って何?BtoBマーケで使えるのか考えてみた」

    Adobe Acrobat:「閲覧ツール」から「業務の起点」へ

    Adobe Acrobatは長年「PDFを見るためのツール」として認識されてきました。近年は「契約書に電子署名したいとき」「申請フォームを作成したいとき」といった、より能動的な業務シーンのCEPに拡張を進めています。

    受動的な「ビューアー」から、業務フローの「起点」として想起されるブランドへの転換を図った事例です。

    SmartHR:業務上の「痛み」をCEPとして訴求

    SmartHRは「ハンコを押すために出社した」という業務上の痛みをCEPとして設定し、大きな話題を呼びました。

    ジョブ理論の観点で言えば、顧客が本当に解決したいのは「人事労務の効率化」という抽象的な課題ではなく、「ハンコのためだけに出社するという理不尽をなくしたい」という具体的な状況です。CEPを具体的な業務シーンのレベルまで落とし込むことで、圧倒的な共感と想起を獲得した好例です。

    DX支援SaaS企業:検索行動とCEPの接続

    ある中小企業向けのDX支援SaaS企業は、「DXって何から始めたらいいの?」というCEPに着目しました。基礎知識や導入事例を紹介するコンテンツサイトを整備し、「DX 初めて」「DX 何から」といった検索クエリで見つかる状態を構築した結果、これまで届かなかった層からの問い合わせが大幅に増加しました。

    CEPを特定し、そのCEPに直面した人が取る検索行動を予測し、コンテンツで受け止めるという一連の設計が機能した事例です。

    出典:たきぐち「BtoBにおけるメンタルアベイラビリティ向上の実践」

    効果測定の方法

    CEPs戦略は中長期的な取り組みですが、効果を可視化しないと社内の理解や予算確保が難しくなります。以下の指標を組み合わせて、定期的にモニタリングする仕組みを構築しましょう。

    純粋想起率の定期調査

    ターゲット顧客を対象に、「〇〇(カテゴリー名)と聞いて思い浮かぶ企業名を、思いつく順にすべてお書きください」という純粋想起のアンケートを定期的に実施します。

    ポイントは、カテゴリーのフレーミングを明確にすることです。「クラウドサービス」と「バックオフィスの効率化ツール」では、想起されるブランドがまったく異なります。自社が攻略しようとしているCEPに合わせて質問文を設計します。半年〜1年ごとの定点調査で推移を追うことで、施策の効果を確認できます。

    出典:W/A「第一想起は構築できるか?:BtoBで最初に思い出されるブランドになるためのロードマップ」

    指名検索数の推移モニタリング

    Googleサーチコンソールやキーワードプランナーを使って、自社のブランド名やサービス名を含む検索クエリの推移を追跡します。指名検索の増加は、メンタルアベイラビリティ向上の代理指標として非常に有効です。

    特に、「サービス名+事例」「サービス名+評判」「サービス名+料金」といった検索が増えている場合、顧客が比較検討フェーズにおいて自社を候補として想起していることを示唆しています。

    CEPごとの想起率の計測

    可能であれば、CEPごとに想起率を分けて測定します。「〇〇な状況に直面したとき、最初に思い浮かぶ企業はどこですか?」という質問を、複数のCEPに対して実施します。

    これにより、自社が強いCEPと弱いCEPが可視化され、リソースの配分を最適化できます。弱いCEPに対して追加施策を投入するか、強いCEPをさらに強化するか、データに基づいた判断が可能になります。

    CEPs戦略の効果測定サイクル ① 純粋想起率の調査 半年〜1年ごとのアンケート ② 指名検索数の追跡 サーチコンソールで月次確認 ③ CEP別想起率の分析 強い/弱いCEPを可視化 ④ 施策の改善・再投資 弱いCEP強化 or 新CEP開拓 PDCAを 継続的に回す 短期のリードKPIとは別に、想起関連の指標を中長期KPIとして設定する

    よくある失敗と注意点

    CEPsをBtoBマーケティングに導入する際に、陥りやすい落とし穴をまとめます。

    失敗1:CEPsを広げすぎてメッセージが分散する

    「あれもこれも入口にしよう」と欲張ると、すべてのCEPで中途半端な想起しか獲得できず、どこでも第一想起を取れない状態になります。まずは勝てるCEPを1つに絞り、そこで確固たるポジションを築いてから横展開するのが鉄則です。

    失敗2:「入口」を「接点」と混同する

    「SNSで想起を取る」「ウェビナーで想起を取る」は、入口ではなく接点の話です。入口はあくまで顧客の業務上の状況・課題です。接点(チャネル)の議論に吸い込まれると、CEPs設計の根幹が崩れます。

    失敗3:短期のリードKPIに引っ張られる

    CEPs戦略は中長期的なブランド想起の構築を目的としています。四半期ごとのMQL数やリード獲得数だけで評価すると、「効果が見えない」と判断されて施策が打ち切られるリスクがあります。

    純粋想起率や指名検索数など、想起に関連する指標を別途KPIに設定し、中長期の成果を経営層と合意しておくことが重要です。

    失敗4:CEPsを一度見つけて終わりにする

    顧客の業務環境や市場の状況は常に変化しています。一度設定したCEPsが永続的に有効とは限りません。定期的に顧客インタビューや想起率調査を実施し、CEPsを継続的に検証・更新するサイクルを回す必要があります。

    失敗5:既存のフレームワークを捨ててしまう

    CEPsはペルソナ設計やSTP、ABMといった既存のBtoBマーケティングフレームワークと対立するものではありません。「誰に」(ペルソナ)×「どんな状況で」(CEP)×「どのチャネルで」(タッチポイント)を掛け合わせることで、施策の精度が格段に上がります。

    明日から始める3つのアクション

    最後に、本記事を読んだ後すぐに取り組める具体的なアクションをまとめます。

    アクション1:営業チームに「一番刺さる困りごとの話」を聞く

    営業やCSのメンバーに、「お客様が最も反応する"困った状況"は何ですか?」と聞いてみてください。そこにCEPsの候補が眠っています。まずは3〜5つの候補をリストアップするところから始めましょう。

    アクション2:自社の既存コンテンツを「入口」視点で棚卸しする

    ブログ記事、ホワイトペーパー、ウェビナーのテーマを一覧にし、「これは顧客のどのCEP(困った状況)に対応しているか?」をマッピングしてみてください。対応するCEPがないコンテンツは、機能紹介に偏っている可能性があります。

    アクション3:指名検索数の現状を把握する

    Googleサーチコンソールで自社のブランド名・サービス名の検索クエリと推移を確認します。これがCEPs戦略の効果測定のベースラインになります。

    まとめ

    カテゴリーエントリーポイント(CEPs)は、「顧客の頭の中で、課題が発生した瞬間に最初に思い出される企業になる」ための戦略フレームワークです。

    BtoBの購買行動——複数人による意思決定、リスク回避志向、長い検討期間——を踏まえると、CEPsの重要性はBtoCと同等か、それ以上です。

    大切なのは、CEPsを「接点(チャネル)」と混同せず、顧客の業務上の課題・状況という「入口」として正しく理解すること。そして、勝てるCEPを1つ選び、そこにコンテンツ・広告・セミナー・営業活動を一貫させていくことです。

    施策の量を増やすのではなく、顧客の「思い出す瞬間」を設計する。このアプローチの転換が、BtoBマーケティングの成果を根本から変えていきます。

    参考文献・出典

    最終更新日:2026-04-06
    編集者:

    中川 晃次

    再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

    関連記事