ニーズを"言語化できているか"で決まるBtoB広告の選び方購買行動モデルから読み解くリスティング・ディスプレイ・SNS広告の使い分け

    BtoB Marketing Strategy Guide

    ニーズを"言語化できているか"で決まる
    BtoB広告の選び方

    「どの広告を使えばいいかわからない」の答えは、顧客の課題が"言葉になっているか"にあります。

    BtoB広告は手法が多岐にわたりますが、選び方の軸はシンプルです。「ターゲット企業の担当者が、自社の課題を言語化できているかどうか」。このインフォグラフィックでは、購買行動モデルの知見をもとに、言語化を軸にした広告手法の選び方を図解します。

    本記事が参照する主な研究・フレームワーク

    Dixon & Adamson (2011)

    The Challenger Sale — BtoB購買の57%が営業接触前に完了

    Kotler, Kartajaya & Setiawan (2017)

    Marketing 4.0, Wiley — 5Aモデルと他者影響

    Google / Nielsen メタ分析 (2018–2020)

    フルファネル戦略でROI最大45%向上

    Wijaya (2012)

    購買行動モデルの発展, Int'l Research J. of Business Studies

    Chapter 01

    リスティング広告の「前提条件」

    リスティング広告が機能するには 「課題を検索キーワードとして言語化できている」ことが前提

    「SFA 比較」と検索できる人は、課題を認識し、解決カテゴリを知り、比較段階にいる人。
    つまり、すでに課題を"言葉"にできている人だけが対象です。

    多くの企業がぶつかる3つの壁

    01

    検索ボリュームの限界

    リード数が頭打ちになる

    02

    CPC高騰

    競合参入でCPA(獲得単価)悪化

    03

    予算効率の低下

    予算を増やしても比例して伸びない

    リスティング広告が届かない顧客たち

    「営業の生産性が落ちている気がするが、何が原因かわからない」— 部門マネージャー

    「バックオフィスは非効率だが、何を改善すべきか整理できていない」— 経営者

    「現状の業務プロセスに課題を感じていない」— 現場担当者

    では、言語化できていない顧客にどう届けるか?

    Chapter 02

    BtoB購買は「ぼんやり」から始まる

    BtoBの購買は、広告を見て始まるのではなく、組織内の「なんとかしたい」という空気から始まります。購買プロセスの57%は営業接触前に完了(CEB調査)。この「ぼんやり→具体化」のプロセスを5フェーズで整理します。

    未言語化 完全に言語化

    構想

    「何かを変えなければ」という漠然とした危機感

    検索行動なし

    調査

    「うちの問題は何なのか」を探っている

    「営業 効率化 方法」

    計画

    方向性と予算感を固めつつある

    「SFA とは メリット」

    検討

    候補を絞り込み比較評価している

    「〇〇 vs △△ 比較」

    購買

    社内合意を経て契約・発注へ

    完全に言語化

    広告の役割は、この言語化プロセスの各段階に「適切な情報を、適切なタイミングで届ける」こと

    Chapter 03

    顧客の「言語化度」× 最適な広告手法

    5フェーズを「言語化度」で3層に集約すると、各層に最適な広告手法が明確になります。

    非認知層

    =「構想」フェーズ / 未言語化

    課題そのものに気づいていない。検索行動を起こさない、最大の母数を持つ層。

    経営層・現状に満足している部門長

    最適な広告手法

    展示会・カンファレンス
    タクシー広告
    業界メディア純広告
    ブランド動画広告

    KPI:リーチ数・ブランドリフト・名刺獲得数

    潜在層

    =「調査〜計画」フェーズ / 曖昧

    課題の輪郭が見え始め、方向性を探っている段階。漠然とした検索やコンテンツ消費。

    改善に関心はあるが手段を知らないマネージャー

    最適な広告手法

    ディスプレイ広告(ABM)
    SNS広告(LinkedIn)
    ホワイトペーパー
    ウェビナー・記事広告

    KPI:MQL数・DL数・CTR・ウェビナー参加率

    顕在層

    =「検討〜購買」フェーズ / 明確

    候補を絞り込み、比較・評価・発注に向かっている。具体的な製品名で検索。

    ツール選定中の担当者・情シス・購買担当

    最適な広告手法

    リスティング広告
    リターゲティング
    比較サイト掲載
    導入事例コンテンツ

    KPI:SQL数・CPA・CVR・商談化率

    Nielsen / Google メタ分析(2018–2020)

    フルファネル戦略でROIが最大 45% 向上

    「検討〜購買」だけでなく「構想」「調査」から接点を持つことが成果を左右する

    Key Concept

    同じ製品でもペルソナで言語化度が違う

    BtoBでは同じ製品に対して複数の意思決定者が関わり、同じ時点でも各ペルソナの言語化度は異なります

    例:勤怠管理システムの導入

    現場の人事担当者

    「検討」フェーズ — 言語化度:高

    「勤怠管理 エクセル 限界」
    「〇〇 vs △△」

    部門マネージャー

    「計画」フェーズ — 言語化度:中

    「勤怠管理 クラウド化
    メリット」

    経営層

    「構想」フェーズ以前 — 言語化度:低

    「人件費 最適化」
    (別の文脈で気づく)

    ペルソナごとに「今どのフェーズにいるか」を判定し、それぞれに適した広告とメッセージを用意する

    Action Plan

    BtoB広告戦略の5ステップ

    1

    言語化度を判定

    ペルソナごとに課題の言語化度を見極める

    2

    フェーズを可視化

    5フェーズモデルで今どこにいるか整理

    3

    広告を配分

    フェーズ×広告マッピングで予算を決める

    4

    KPIを設定

    ステージごとに異なるKPIを設計

    5

    フルファネルへ拡張

    PDCAを回しながら対象フェーズを広げる

    段階的に広げる

    初期

    まず顕在層向けのリスティング広告から始めるのが効率的

    成長

    ディスプレイ・LinkedIn広告・ホワイトペーパーで潜在層を開拓

    成熟

    非認知層から既存顧客までカバーするフルファネル戦略でROI最大化

    Conclusion

    BtoB広告選びの3つの原則

    まず「言語化度」を問う

    「どの広告が良いか」ではなく「ターゲットは課題を言語化できているか?」から出発する

    ペルソナごとに見極める

    複数の意思決定者がそれぞれ異なるフェーズにいる。ペルソナ別に最適な広告を設計する

    フルファネルで組み合わせる

    構想から購買まで各フェーズをカバーする戦略が、最大のROI(最大45%向上)を生む

    ニーズを"言語化できているか"で決まるBtoB広告の選び方

    購買行動モデルから読み解くリスティング・ディスプレイ・SNS広告の使い分け

    「どの広告を使えばいいのかわからない」――これは、BtoBマーケティングに取り組む企業が最初にぶつかる壁です。リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告(LinkedIn・Facebook)、動画広告、展示会、ホワイトペーパー……手法は多岐にわたり、それぞれの特徴も異なります。

    しかし、広告手法を選ぶ際の本質的な判断基準は、実は非常にシンプルです。それは、「ターゲットとなる企業の担当者が、自社の課題を言語化できているかどうか」です。

    「言語化」は、三省堂「今年の新語2024」で大賞に選ばれ、2025年のビジネス書ランキングでも関連書籍が上位を占めるトレンドワードです(出典:三省堂 今年の新語2024)。この「言語化」という概念は、BtoBマーケティングの広告戦略とも深くつながっています。BtoC以上に「課題の明確化」が購買行動を左右するBtoBにおいて、顧客の言語化度合いを見極めることは広告戦略の核心そのものです。

    本記事では、BtoBの購買行動モデルやマーケティングの学術的知見を踏まえながら、「言語化」を軸にした広告手法の使い分けを解説します。

    第1章:リスティング広告は「言語化できている」ことが前提条件

    BtoB広告の第一歩はリスティング広告――だが、壁にぶつかる

    BtoBで広告を始める企業の多くは、まずリスティング広告(検索連動型広告)から着手します。理由は明快です。「SFA 比較」「勤怠管理システム 中小企業」と検索している人は、まさに今ソリューションを探している。そこに自社の広告を出せば、確度の高いリードが取れる。実際、顕在層へのアプローチとしてリスティング広告は非常に優秀です。

    しかし、多くの企業がリスティング広告で成果を出した後、同じ壁にぶつかります。

    • 検索ボリュームが少なく、リード数が頭打ちになる
    • 競合の参入でCPC(クリック単価)が高騰し、CPA(獲得単価)が悪化する
    • 予算を増やしても、リード数が比例して伸びない

    これは、リスティング広告の仕組みを考えれば当然の帰結です。リスティング広告が機能するには、顧客が「自分の課題を検索キーワードとして言語化できていること」が前提条件だからです。「SFA 比較」と検索できる人は、自社の営業課題を認識し、SFAというソリューションカテゴリを知り、比較検討段階にいる人です。つまり、すでに課題を「言葉」にできている人だけが対象です。

    リスティング広告が届かない顧客が、大量に存在する

    問題は、BtoBの市場においてこの「言語化できている層」はごく一部にすぎないということです。

    CEBの調査によれば、BtoB購買プロセスの57%は営業担当者と接触する前に完了しています(出典:Dixon & Adamson, 2011 The Challenger Sale, Portfolio/Penguin)。言い換えれば、見込み客は営業に連絡する前にWeb検索やコンテンツ閲覧で情報を集め、候補を絞り込んでいます。しかしこの「検索で情報を集めている人」ですら、市場全体から見ればすでに購買プロセスが進んだ一部の層です。

    その手前には、もっと大きなボリュームの顧客が存在します。

    • 「営業の生産性が落ちている気がするが、何が原因かわからない」と漠然と感じている部門マネージャー
    • 「うちのバックオフィスは非効率だ」とは思いつつ、具体的に何を改善すべきか整理できていない経営者
    • そもそも現状の業務プロセスに課題を感じていない現場担当者

    これらの人々は「検索しない」ので、リスティング広告では絶対にリーチできません。

    問いの転換:言語化できていない顧客にどう届けるか?

    ここに、BtoB広告戦略における本質的な問いがあります。

    リスティング広告が強力なのは事実です。しかし、それは「言語化できている層」という限られたパイの中での最適化にすぎません。市場を本当に拡大するためには、まだ課題を言葉にできていない顧客――「何かを変えなければ」と漠然と感じている段階の人、あるいは課題そのものに気づいていない人――にも接点を持つ必要があります。

    では、言語化できていない顧客にどう届けるか?

    この問いに答えるために、まず「BtoBの買い手はどのように課題を言語化していくのか」というプロセスを理解する必要があります。次章では、BtoB購買の「ぼんやり→具体化」のプロセスを5つのフェーズで整理し、各フェーズに適した広告手法との対応関係を明らかにします。

    第2章:「言語化できているか」がBtoB広告選びの分水嶺

    BtoBの購買は「ぼんやり」から始まる

    第1章で見たように、リスティング広告は「言語化できている層」だけを対象にした手法です。では、言語化できていない顧客はどこにいるのでしょうか。

    AIDAやAISASといった従来の購買行動モデルは「Attention(注意を引く)」、つまり広告側のアクションを起点としています(出典:Wijaya, 2012)。しかしBtoBの現場では、購買は広告への反応から始まるのではなく、もっとぼんやりとした「なんとかしたい」という組織内の空気から始まります。

    この「ぼんやりした状態から、言葉にできる状態へ」という流れこそが、BtoB購買行動の本質です。そしてこの流れを理解することが、リスティング広告だけでは届かない顧客への打ち手を見つける鍵になります。

    BtoB購買の5フェーズ:構想 → 調査 → 計画 → 検討 → 購買

    こうした知見を踏まえ、本記事ではBtoBの購買プロセスを以下の5フェーズで整理します。このモデルの特徴は、買い手の「言語化の進み具合」を軸にしている点です。

    フェーズ 買い手の状態 言語化の度合い 典型的な行動
    構想 「何かを変えなければ」という漠然とした危機感や違和感がある 未言語化 業界カンファレンスへの参加、経営者同士の情報交換、タクシー広告やTVCMへの偶発的な接触
    調査 課題の輪郭が見え始め、「うちの問題は何なのか」を探っている 曖昧 「営業 効率化 方法」「DX 何から始める」など漠然とした検索、ホワイトペーパーのダウンロード、ウェビナーへの参加
    計画 課題を社内で共有し、解決の方向性と予算感を固めつつある やや明確 「SFA とは メリット」「勤怠管理 クラウド 導入事例」などカテゴリレベルの検索、社内稟議資料の準備
    検討 候補となる製品・サービスを絞り込み、比較評価している 明確 「〇〇 vs △△ 比較」「〇〇 料金 プラン」など製品名を含む具体的な検索、デモ依頼、トライアル申込
    購買 社内合意を経て、発注・契約に至る 完全に言語化 見積依頼、契約交渉、社内承認プロセス
    BtoB購買の5フェーズ ― 言語化はどう進むか 未言語化 完全に言語化 構想 「何かを 変えなければ」 漠然とした 危機感・違和感 検索行動なし 調査 「うちの問題は 何なのか」 課題の輪郭が 見え始める 漠然とした検索 計画 「方向性と 予算を固める」 課題を社内共有 稟議資料の準備 カテゴリ検索 検討 「候補を絞り込み 比較評価する」 デモ依頼 トライアル申込 製品名で検索 購買 「契約・発注」 見積依頼 社内承認 完全に言語化 BtoBの購買は「ぼんやり」から始まる 左に行くほど言語化されておらず母数が大きい / 右に行くほど言語化が進み商談化率が高い → 購買プロセスの57%は営業接触前に完了する(CEB調査):早期フェーズへの広告投資が不可欠
    図2:BtoB購買の5フェーズ ― 「構想」の段階ではニーズは言語化されておらず、フェーズが進むにつれて言葉になっていく。

    重要なのは、BtoCのように「広告を見て → 興味を持って → 購入する」という流れではなく、BtoBでは買い手自身の内部プロセスとして「ぼんやりした課題感が、徐々に言葉になっていく」ということです。広告の役割は、この言語化プロセスの各段階に「適切な情報を、適切なタイミングで届ける」ことにあります。

    5フェーズを「言語化度」で3層に整理する

    5フェーズモデルは購買プロセスの解像度を高めてくれますが、広告手法の選択においては、より大きな「言語化度の区切り」で捉えるほうが実用的です。5フェーズを言語化の度合いで3つの層にまとめると、広告手法との対応関係が明確になります。

    顧客層 対応フェーズ 言語化の度合い 検索行動・情報収集の例
    非認知層(言語化以前) 構想 未言語化 課題そのものを認識していない。現状の業務プロセスに疑問を持っておらず、検索行動を起こさない
    潜在層(言語化が曖昧) 調査 〜 計画 曖昧 〜 やや明確 「営業 効率化 方法」「バックオフィス 工数削減」「DX 何から始める」「SFA とは メリット」など、課題や解決カテゴリレベルの検索
    顕在層(言語化できている) 検討 〜 購買 明確 〜 完全に言語化 「SFA 比較」「勤怠管理システム 中小企業 料金」「〇〇 vs △△」など、具体的な製品名やソリューション名で検索できる

    なぜ「言語化」で広告を選ぶのか?

    この分類がBtoB広告手法の選択に直結する理由は、各広告の「起点」が異なるからです。

    • リスティング広告の起点は「検索キーワード」 → 担当者が課題を言葉にしていることが前提。「検討〜購買」フェーズに対応
    • ディスプレイ広告/SNS広告の起点は「ターゲティング条件」 → 言葉にできていない層にも、職種・業種・役職でリーチ可能。「調査〜計画」フェーズに対応
    • ホワイトペーパー・ウェビナーの起点は「知的好奇心・業務課題感」 → 漠然とした課題意識を具体化させ、「調査」から「計画」への移行を促す
    • 展示会・タクシー広告・動画広告の起点は「偶発的な接触」 → 課題を認識していない「構想」フェーズの層にも気づきを与える

    つまり、リスティング広告は「検討〜購買」フェーズにいる人に対して最も効率的に働きますが、それだけではBtoB購買プロセスの大半を占める前段階にリーチできません。「構想」や「調査」という、まだ言葉になっていない段階でいかに接点を持つか。ここにBtoB広告戦略の本質的な難しさと、同時に大きな機会があります。

    BtoBならではの「複数ペルソナ × 言語化度」問題

    BtoCと異なり、BtoBでは同じ製品に対して現場担当者(ユーザー)、部門マネージャー(意思決定者)、IT部門(ゲートキーパー)、経営層(最終承認者)という複数のペルソナが存在します。そして重要なのは、同じ時点でも各ペルソナの「言語化度」は異なるということです。

    例えば、勤怠管理システムの導入を考える場合を想定してみましょう。現場の人事担当者はすでに「検討」フェーズにおり、「勤怠管理 エクセル 限界」「〇〇 vs △△」と具体的に検索しているかもしれません。一方、その上司である部門マネージャーはまだ「計画」フェーズで「勤怠管理 クラウド化 メリット」を調べている段階。さらに経営層は「構想」フェーズ以前で、勤怠管理そのものに課題を感じておらず、「人件費 最適化」という別の文脈で初めて気づきを得るかもしれません。

    ペルソナごとに「今どのフェーズにいるか(=言語化度)」を判定し、それぞれに適した広告手法とメッセージを用意する。これがBtoB広告戦略の要です。

    「言語化の度合い」と最適なBtoB広告手法 言語化の度合い(低 → 高) 非認知層 =「構想」フェーズ 課題を認識していない / 母数が最も大きい 「何かを変えなければ」という漠然とした危機感 / 検索行動なし ペルソナ例:コスト削減に関心のない経営層、現状に満足している部門長 潜在層 =「調査〜計画」フェーズ 課題の輪郭が見え始め、方向性を探っている 「営業 効率化 方法」「SFA とは メリット」「DX 何から始める」 ペルソナ例:業務改善に関心はあるが具体的な手段を知らないマネージャー 顕在層 =「検討〜購買」フェーズ 候補を絞り込み、比較評価・発注に向かっている 「SFA 比較」「〇〇 vs △△ 料金」「勤怠管理 クラウド 料金」 ペルソナ例:ツール選定中の現場担当者・情シス、デモ依頼する購買担当 展示会・カンファレンス タクシー広告 業界メディア純広告 ブランド動画広告 KPI:リーチ・名刺数・ブランドリフト ディスプレイ広告(ABM) SNS広告(LinkedIn) ホワイトペーパー ウェビナー・記事広告 KPI:MQL数・DL数・CTR リスティング広告 リターゲティング 比較サイト・導入事例 KPI:SQL数・CPA・商談化率 ファネル上部ほど母数が大きく、下部ほど商談化率が高い → フルファネルで組み合わせることでROIが最大化する(Nielsen/Google調査:ROI最大45%向上)
    図3:言語化の度合い(3層)と最適なBtoB広告手法の対応関係。5フェーズを言語化度で3層に集約し、各層に適した広告手法を対応づけている。

    Kotler, Kartajaya, Setiawan(2017)は『Marketing 4.0』において、5Aモデル(Aware → Appeal → Ask → Act → Advocate)を提唱し、顧客が各ステージで受ける影響を「Own(自己)・Others(他者)・Outer(外部)」の3つに整理しました。BtoBでは「Others」の影響――同業他社の導入事例、業界専門メディアの評価、展示会での口コミ――が「構想」から「調査」への移行を促す強力なトリガーとなります(出典:Kotler et al., 2017 Marketing 4.0, Wiley)。

    Nielsenのメタ分析(Google委託、2018-2020年)によれば、フルファネル戦略は単一ステージのキャンペーンと比較して、ROIが最大45%向上しました。BtoBにおいても、「検討〜購買」フェーズだけに広告を集中させるのではなく、「構想」「調査」という早期フェーズから接点を持つことが成果を大きく左右します(出典:Google / Think with Google)。

    第3章:ステージ別・BtoB広告手法マッピング

    ここまでの議論を踏まえ、顧客ステージごとに最適なBtoB広告手法を一覧で整理します。

    顧客ステージ 対応フェーズ 言語化度 最適な広告手法 主な目的 KPI例
    非認知層 構想 未言語化 展示会・カンファレンス / タクシー広告 / 業界メディア純広告 / ブランド動画 認知・課題の気づき創出 リーチ数・ブランドリフト・名刺獲得数
    潜在層 調査〜計画 曖昧〜やや明確 ディスプレイ広告(ABM)/ SNS広告(LinkedIn・Facebook)/ ホワイトペーパー / ウェビナー / 記事広告 興味喚起・課題の顕在化・リード獲得 MQL数・CTR・DL数・ウェビナー参加率
    顕在層 検討〜購買 明確〜完全に言語化 リスティング広告 / リターゲティング / 比較サイト掲載 / 導入事例コンテンツ 比較検討・コンバージョン獲得 SQL数・CPA・CVR・商談化率
    既存顧客 購買後 再言語化 メールナーチャリング / カスタマーサクセス / ユーザーコミュニティ / ABM リテンション・アップセル・LTV向上 NRR(売上維持率)・解約率・アップセル率

    このマッピングのポイントは、「広告手法の特徴」から選ぶのではなく、「顧客が今どのフェーズにいるか」から選ぶという発想です。「うちのSaaSにリスティングが合うか」ではなく、「ターゲットが『検討〜購買』フェーズにいるならリスティング」「まだ『構想』フェーズなら展示会やブランド動画」という順番で考えます。

    第4章:各広告手法の特徴と実践ポイント

    4-1. リスティング広告:言語化できている層に最強

    リスティング広告は、GoogleやYahoo!(Microsoft広告を含む)でユーザーが検索したキーワードに連動して表示される広告です。BtoBでは「SFA 比較」「請求書 電子化 サービス」「会議室予約 システム」のように、具体的なソリューション名や課題キーワードで検索する顕在層を捕捉します。

    強み

    ニーズが明確な顕在層にピンポイントでリーチできるため、BtoBでは最もCPA効率の良い施策の一つです。特に「ツール名 + 比較」「ツール名 + 料金」「ツール名 + 評判」といった検索は購買意欲が非常に高く、商談化率も高い傾向にあります。

    弱み

    BtoBの場合、検索ボリュームがBtoCと比べて圧倒的に少ないため、リスティング広告だけではスケールに限界があります。また、CPC(クリック単価)がBtoC以上に高騰する傾向にあり、ニッチなBtoB領域では1クリック数千円に達することも珍しくありません。さらに、潜在層・非認知層にはリーチできないため、これだけで市場を拡大することは困難です。

    BtoB実践のポイント

    ランディングページには「導入事例」「費用対効果の試算」「無料トライアル・デモ」など、BtoB特有の意思決定材料を配置します。フォームの項目は「会社名」「役職」「従業員規模」など、リードの質を判別できる情報を含めましょう。

    KPI例:CPA(リード獲得単価)、CVR(コンバージョン率)、商談化率、SQL単価

    4-2. ディスプレイ広告:ABMとの連携で真価を発揮

    ディスプレイ広告は、Webサイトやアプリ上にバナーで表示される広告です。BtoBでは、Google ディスプレイネットワークに加え、ターゲット企業のIPアドレスや業種・職種で配信できるABM(Account Based Marketing)型のディスプレイ広告が急速に普及しています。

    強み

    「まだ検索していない」潜在層に対して、業種・企業規模・役職などの条件で精度高くリーチできます。特に、ターゲットアカウントリストに基づいて配信するABMディスプレイは、営業が狙っている企業の担当者にピンポイントで広告を届けられる点が強力です。ニーズを「言語化」させるきっかけを作る役割を担います。

    課題

    2025年現在、クッキーレス時代への移行が進んでいます。BtoBでは、サードパーティクッキーに代わるターゲティング手法として、ファーストパーティデータの活用やコンテキスチュアルターゲティング(掲載面の文脈に基づく配信)が重要になっています。

    KPI例:CPM(インプレッション単価)、CTR(クリック率)、ビュースルーコンバージョン、ターゲットアカウントのサイト訪問数

    4-3. SNS広告(LinkedIn・Facebook):役職・業界でピンポイントに届ける

    BtoBにおけるSNS広告の主戦場はLinkedInとFacebookです。特にLinkedInは、職種・役職・業界・企業規模・スキルなどのビジネスプロファイルに基づいたターゲティングができる唯一のプラットフォームであり、BtoB広告との相性が抜群です。

    強み

    LinkedIn広告では「従業員500名以上のIT企業の、マーケティング部門マネージャー以上」のような、BtoBに特化したセグメントを設定できます。リード獲得フォーム(Lead Gen Forms)を活用すれば、LinkedInのプロフィール情報が自動入力されるため、フォーム通過率が高く、質の高いリードを効率的に獲得できます。Facebook広告も、リターゲティングやルックアライクオーディエンスの精度が高く、潜在層へのリーチに有効です。

    BtoB実践のポイント

    LinkedIn広告はCPCが比較的高い(数百円〜数千円)ため、コンテンツの質が費用対効果を大きく左右します。ホワイトペーパーのダウンロードやウェビナーへの集客など、「情報提供型」のオファーと組み合わせることで、見込み客の情報を効率的に獲得できます。

    KPI例:リード獲得単価、エンゲージメント率、MQL転換率

    4-4. コンテンツマーケティング(ホワイトペーパー・ウェビナー・記事広告):潜在層の課題を顕在化させる

    BtoBにおいて、ホワイトペーパー、ウェビナー、記事広告などのコンテンツマーケティングは、広告手法としてだけでなく、見込み客の課題を「言語化」させる装置として機能します。

    強み

    「営業部門の生産性を上げたいが、何をすればいいかわからない」という潜在層に対して、課題の構造を整理し、解決策の選択肢を提示することで、ニーズの「言語化」を促進します。特にBtoBでは、購買前に平均13本のコンテンツを消費するという調査結果もあり(出典:FocusVision / Demand Gen Report, 2019 "B2B Buyers Survey Report")、コンテンツの充実度が商談創出に直結します。

    BtoB実践のポイント

    ホワイトペーパーは「課題啓発型」と「製品比較型」の2種類を用意しましょう。潜在層には「〇〇業界の課題と解決アプローチ」といった課題啓発型を、顕在層には「〇〇ツール比較ガイド」といった製品比較型を提供します。これにより、同じコンテンツマーケティングでも顧客の言語化度に応じた使い分けが可能になります。

    KPI例:ダウンロード数、ウェビナー参加率、MQL数、コンテンツ経由の商談数

    4-5. 動画広告・タクシー広告:経営層へのブランド認知に有効

    YouTube広告やタクシーサイネージ広告(Tokyo Prime、GROWTHなど)は、BtoBにおいて経営層・意思決定者への認知獲得に活用されるケースが増えています。

    強み

    映像と音声を組み合わせることで、テキストやバナーでは伝えきれない「課題の存在」を直感的に伝えることができます。特にタクシー広告は、移動中の経営者にリーチできる貴重なチャネルとして、BtoB SaaS企業を中心に活用が拡大しています。「課題を認識していない」非認知層(特に経営層)に対して、課題の存在に気づかせるきっかけを作ります。

    BtoB実践のポイント

    動画広告単体でのコンバージョンを期待するのではなく、「動画広告で認知を獲得 → リスティング広告やコンテンツで受け皿を用意」というクロスチャネル設計が重要です。タクシー広告の視聴後に「サービス名」で検索する行動が発生するため、ブランドキーワードでのリスティング広告を併走させましょう。

    KPI例:視聴完了率、ブランドリフト、指名検索数の変化

    4-6. 展示会・カンファレンス:対面接点で非認知層を動かす

    オフラインの展示会やカンファレンスは、BtoBにおいて依然として強力な顧客接点です。Japan IT Week、SaaS EXPO、Marketing Technology Expoなどの大型展示会では、来場者が「何か良いツールはないか」と漠然と情報収集に来ることが多く、非認知層・潜在層との接点を効率的に作れます。

    強み

    対面でのデモンストレーションや直接対話を通じて、見込み客の課題を引き出し、その場で「言語化」を支援できます。名刺情報(リード情報)を大量に獲得でき、後続のナーチャリング施策と組み合わせることで、中長期的な商談創出につなげられます。

    課題

    出展コストが高額であること、獲得リードの質にばらつきがあること、成果が出るまでに時間がかかることが課題です。展示会単体で評価するのではなく、展示会→メールナーチャリング→商談化というファネル全体で効果測定を行う必要があります。

    KPI例:名刺獲得数、有効リード率、展示会経由の商談数・受注率

    第5章:失敗しないBtoB広告戦略の組み立て方(5ステップ)

    最後に、本記事のフレームワークを実際のBtoB広告戦略に落とし込むための5ステップを紹介します。

    BtoB広告戦略の5ステップ Step 1 ペルソナごとに 「言語化度」を 判定する Step 2 購買行動モデルで ステージを 可視化する Step 3 ステージ×広告の マッピングで 配分を決める Step 4 KPIを ステージごとに 設定する Step 5 PDCAで フルファネルへ 拡張する 初めて広告を始める場合 → まず「言語化できている層」向けのリスティング広告から始めるのが効率的 成果が出たら → ディスプレイ・LinkedIn広告・ホワイトペーパーで潜在層を開拓し、市場を広げる 最終的には → 非認知層から既存顧客までカバーするフルファネル戦略で最大のROIを目指す 非認知層 KPI:リーチ・名刺数 潜在層 KPI:MQL数・DL数 顕在層 KPI:SQL・CPA・商談化率 既存顧客 KPI:NRR・解約率 BtoBでは「ペルソナごと」に言語化度が異なる → 現場・マネージャー・経営層それぞれの導線を設計する
    図3:BtoB広告戦略の5ステップ ― ペルソナ別の言語化度判定からフルファネル拡張まで
    1. Step 1:ターゲット企業・担当者の「言語化度」を判定する。ターゲット企業の担当者は、自社の課題を検索キーワードとして言語化できていますか?それとも、まだ漠然とした課題感の段階ですか?あるいは、課題そのものを認識していない段階ですか?ペルソナごと(現場担当者、マネージャー、経営層)に言語化度を判定することが出発点です。
    2. Step 2:購買行動モデルでステージを可視化する。第2章の5フェーズモデル(構想→調査→計画→検討→購買)を使って、ターゲットが今どのフェーズにいるのかを整理します。BtoBでは特に、「調査〜計画」フェーズが長く複雑であることを考慮し、このフェーズに対して十分なコンテンツと広告を配置することが重要です。
    3. Step 3:ステージ×広告手法のマッピングで配分を決める。第3章のマッピング表を参考に、予算配分を決定します。BtoBで初めて広告を始める場合は、まず「言語化できている層」向けのリスティング広告から始めるのが効率的です。リスティング広告で確実にコンバージョンする層を押さえたうえで、次のステージへ拡張していきます。
    4. Step 4:KPIをステージごとに設定する。非認知層にはリーチ数・ブランドリフト・指名検索数、潜在層にはMQL数・コンテンツDL数・ウェビナー参加数、顕在層にはSQL数・CPA・商談化率、既存顧客にはNRR・解約率・アップセル率と、ステージに応じたKPIを設定します。ステージごとにKPIを分けることで、「認知広告はCPAで評価しない」「リスティング広告はリーチで評価しない」という原則が組織に浸透します。
    5. Step 5:PDCAを回しながらフルファネルへ拡張する。単一ステージで成果が出たら、次のステージへ拡張します。リスティング広告で顕在層を確保 → ディスプレイ・SNS広告で潜在層を開拓 → 展示会・動画広告で非認知層に認知を広げる → メールナーチャリングで既存顧客を育成。最終的には、非認知層から既存顧客までをカバーするフルファネル戦略を目指しましょう。

    まとめ

    BtoB広告手法の選択に迷ったら、まず問うべきは「どの広告が良いか」ではありません。

    「ターゲット企業の担当者は、自社の課題を言語化できているか?」

    この問いから出発すれば、自然と最適な広告手法が見えてきます。言語化できている層にはリスティング広告、まだ曖昧な層にはディスプレイ・SNS広告やホワイトペーパー、課題を認識していない層には動画広告や展示会。そして、BtoBでは複数の意思決定者それぞれの「言語化度」を見極め、ペルソナごとに適切な広告とコンテンツを用意することが成功の鍵です。

    フルファネルでこれらを組み合わせた戦略こそが、BtoBマーケティングにおいて最も大きな成果を生みます。「言語化」というレンズを通してBtoB広告戦略を見直すことで、限られた予算でも最大の効果を引き出すことができるでしょう。

    参考文献

    1. Kotler, P., Kartajaya, H., Setiawan, I. (2017) Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital, Wiley(Wiley公式ページ
    2. Kaushik, A. (2013) "See, Think, Do: A Content, Marketing, Measurement Business Framework"(Occam's Razor by Avinash Kaushik
    3. Webster, F.E. Jr., Wind, Y. (1972) "A General Model for Understanding Organizational Buying Behavior", Journal of Marketing, 36(2), pp.12-19
    4. Dixon, M., Adamson, B. (2011) The Challenger Sale: Taking Control of the Customer Conversation, Portfolio/Penguin
    5. Wijaya, B.S. (2012) "The Development of Hierarchy of Effects Model in Advertising", International Research Journal of Business Studies, 5(1)(ResearchGate
    6. Google / Nielsen メタ分析 (2018-2020) CPGフルファネル戦略ROI調査(Think with Google
    7. FocusVision / Demand Gen Report (2019) "B2B Buyers Survey Report"
    8. SiriusDecisions (Forrester) Demand Waterfall™ Framework
    9. 電通 Transformation SHOWCASE (2025) GEO/LLMO解説(電通 Transformation SHOWCASE
    10. McTigue, C. (2019) cited in "Avoiding digital marketing analytics myopia", Journal of Marketing Analytics(PMC
    最終更新日:2026-02-21
    編集者:

    中川 晃次

    再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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