AI検索で入口が細る時代、BtoBマーケティングはメンタルアベイラビリティとカスタマーポータルで“獲得後”を握る。

検索順位は落ちていない。なのに、サイトへの流入だけが静かに減っていく——。多くのBtoBマーケターが、いまこの奇妙な感覚を共有している。

結論から言えば、これは一時的な不調ではなく、集客の前提が入れ替わりつつある構造変化だ。そして打ち手は、細っていく「入口」を守ることではない。入口を通り抜けた一人を、いかに離さず、指名で戻ってくる関係に育てるかにある。本稿では、その解としてのカスタマーポータル(会員サイト)を、「メンタルアベイラビリティ」と「ログイン頻度」という補助線から論じてみたい。

前半は検証可能な事実を、後半は私たち自身の見立て(仮説)を扱う。両者は意図して分けて書く。土台が堅いからこそ、その上に立てる仮説に意味があると考えるからだ。

【事実】検索という"入口"は、構造的に細っている

まず、感覚を数字に置き換えるところから始めたい。

SEO分析大手Ahrefsが2025年12月のデータで公表した分析によると、GoogleのAIによる概要(AI Overviews)が表示されるキーワードでは、検索1位ページのクリック率がグローバルで約58%低下していた。日本市場に絞った初の分析でも、約38%の低下が確認されている。日本はまだ相対的に軽症に見えるが、注視すべきは推移だ。グローバルの低下率は2025年4月時点の約34.5%から、同年12月には58.0%へと8か月で悪化している。日本語でのAI概要の精度が上がるにつれ、同じ軌道をたどる可能性は小さくない。

0% 20% 40% 60% 34.5% グローバル 2025年4月 58.0% グローバル 2025年12月 37.8% 日本 2025年12月
AIによる概要が表示されるキーワードでの、検索1位ページのオーガニックCTR低下率。グローバルは8か月で34.5%→58.0%へ悪化。出典:Ahrefs(2025年12月)

BtoBでは影響がさらに色濃く出ている。LinkedInは自社サイトへの検索流入が60%減少したことを公表し、HubSpotでも70〜80%規模の減少が報告されている。米SparkToroらの共同調査では、Google検索の約58.5%がどのサイトもクリックされずに終わっており、AI概要が表示されたクエリに限ればゼロクリック率はさらに跳ね上がるという。

指標 数値 対象・出典
AI概要表示時のオーガニックCTR低下 約58%(グローバル)/約38%(日本) Ahrefs 2025年12月
CTR低下率の推移 34.5%(’25年4月)→ 58.0%(’25年12月) Ahrefs
B2Bサイトの検索流入 約60%減(LinkedIn公表)/70〜80%減(HubSpot) Uravation まとめ
クリックなしで完結する検索 約58.5% SparkToro/日経クロストレンド
AI概要にブランド名が引用された場合 オーガニック +35%/有料 +91% Seer Interactive 調査

つまり「検索で1位を取ればアクセスは保証される」という、長らくSEOの大前提だった等式が崩れ始めている。順位ではなく、AIの回答内で言及されるかどうか。土俵そのものが移り変わっているのだ。

【事実】それでも"指名"は残る ブランドが防御力になる

ここで見落とされがちな非対称性がある。減っているのは、あくまで「調べもの」から始まる不特定の流入だ。すでにそのブランドを知っている人の流入は、影響を受けにくい。

ブックマーク、URLの直接入力、メルマガやLINEからの遷移、そして指名検索。こうした“名前を知っている人”の導線は、AI概要が答えを先回りしても揺らがない。むしろ、ブランド認知が高い企業ほどオーガニック検索の減少に耐性がある、という構造が各所で観測されている。

さらに示唆的なデータがある。Seer Interactiveの調査では、AI概要の中にブランド名が引用された場合、オーガニッククリックはむしろ35%、有料クリックは91%増えたという。AI検索は「万人にとっての脅威」ではない。AIに名前を出してもらえる側と、そうでない側の差を拡大させる装置と捉えるほうが実態に近い。

いずれの経路をたどっても、結論は同じ一点に集約される。これからの流入を左右するのは「このブランドだから」という理由、すなわち想起されやすさ——ブランドの力である。

従来の獲得サイクルが、回らなくなる

入口が細り、指名だけが残る。この二つを重ねると、多くの企業が組んできた勝ちパターンの限界が見えてくる。

「オウンドメディアで記事を量産し、リスティングで刈り取り、フォームでリードを獲得する」——このサイクルは、検索という安価で豊富な入口があって初めて成立していた。その入口が縮み、AIが答えを完結させ、ChatGPTやPerplexityに直接尋ねる行動が広がれば、同じリード数を得るためのコストは上がり続ける。現場では「フォーム経由のリードが前年比で2割減った」という声も珍しくない。

リードを集めるだけでは、もはや成果は生まれない。獲得単価の上昇は、私たちに問いを突きつける。入口が高くつくなら、通した一人からどれだけの価値を引き出せるか——そこで勝負するしかない、と。

【仮説】マス広告の復権と、メンタルアベイラビリティ

ここから先は、データで断定できる領域ではない。因果の向きはまだ検証の途上にある。それでも私たちは、次のメカニズムが働くと見ている。旗を立てて書く。

私たちの見立てはこうだ。認知に効く広告——テレビCMやショート動画のようなマス型の投資——の比重が、これから戻ってくる。

理由は、マーケティングサイエンスの「メンタルアベイラビリティ」という概念にある。Ehrenberg-Bass研究所やByron Sharp(『How Brands Grow』)が示してきたように、これは「人が買う場面に立ったとき、そのブランドがどれだけ想起されやすいか」——記憶構造の広さと新鮮さを指す。

ここにBtoB特有の事情が重なる。同研究所のJohn Dawesが提唱した 95-5 の法則によれば、どの瞬間も“いま買う気がある”市場内顧客はおよそ5%にすぎず、残る95%は将来の買い手として待機している。パフォーマンス広告が得意なのは、この顕在化した5%を刈り取ることだ。だが95%には、刈り取り型の広告は届かない。

いま、市場にいる買い手の割合 95% | 将来の買い手(いまは待機) 5% いま買う パフォーマンス広告が刈り取れるのは左端の5%。マス広告は95%の記憶に種を蒔く。
「95-5の法則」(John Dawes / LinkedIn B2B Institute)。市場のほとんどは“将来の買い手”であり、そこに効くのは想起されやすさ=メンタルアベイラビリティ。

マス型広告の本質は、この95%の記憶に、あらかじめ種を蒔いておくことにある。彼らが将来「買おう」と思い立った瞬間、真っ先にあなたのブランドが浮かぶように。検索が答えを教えてくれなくなる時代には、検索する前の記憶——想起されやすさそのものが、これまで以上に効いてくる。

だからこそ、認知への投資は「時代遅れ」ではなく、むしろ復権する。私たちはそう見ている。ただし、この予測には但し書きが要る。マス広告は広く浅く記憶を耕すが、そこから商談への変換を直接は担えない。認知は増えても、リード変換はむしろ難しくなる——この“ねじれ”をどう解くかが、次の論点になる。

【仮説:私たちの見立て】ログイン頻度は、測れなかったブランドの「計器」になる

認知広告には、長らく致命的な弱点があった。効いている気はするのに、ROIが測れない。だから多くの企業は、測れるパフォーマンス広告へと予算を寄せてきた。メンタルアベイラビリティという“見えない資産”は、勘と信念で語るしかなかったのだ。

カスタマーポータルのログイン頻度は、そのメンタルアベイラビリティを観測可能にする代理指標になり得る。

これが、私たちがこの記事で最も伝えたい仮説だ。ループとして描くと、次のようになる。

メンタルアベイラビリティ ⇅ ログイン頻度 ① マス広告が 記憶構造を広げる ② 指名で戻る =ログインとして観測 ③ ログインが 記憶を再新鮮化 ④ 広告×ログインが 複利で回る
広告が想起(メンタルアベイラビリティ)を生み、それが指名=ログインとして戻り、ログイン自体が記憶を再新鮮化する。広告とログインが複利で回るループ。
  1. マス広告が、広範な記憶構造(想起されやすさ)をつくる。
  2. 買う場面や情報探索の瞬間、そのブランドが真っ先に浮かぶ。人は検索を介さず“指名”で戻ってくる。会員サイトの世界では、これはログインとして観測される。
  3. ログインという行為そのものがブランドとの接触であり、記憶を再び新鮮化する(=メンタルアベイラビリティの補充)。
  4. 結果、広告とログインが複利で回り始める。広告が呼び水となり、ログインが記憶の枯れを止める。

この見立てが正しければ、ログイン頻度・再訪間隔・回遊の深さ は、これまで計器のなかった「ブランドの半分」に針を与える。認知広告が本当に想起を生んでいるのか、それが継続接点として定着しているのか——会員の行動データが、その答えを日次で映し出す。

もちろん、ログイン頻度がメンタルアベイラビリティを完全に代弁するわけではない。因果は逆向きにも働きうるし、他の要因も絡む。それでも、「測れないから投資判断ができない」という長年の壁に、初めて計器を当てられる可能性がある。私たちはこの補助線を、検証に値する仮説として採る。

【解決策】カスタマーポータルで「実名 × 行動データ」を握る

ここまでの論を、具体的な仕組みに落とす。

カスタマーポータル(会員サイト)とは、製品情報・FAQ・資料・動画・各種申請を会員限定で提供し、獲得後の関係を継続的に深める基盤だ。その最大の価値は、匿名のトラッキングに頼らず、実名の行動データを取得できる点にある。

サードパーティCookieが役割を終え、匿名の追跡精度が落ちていく流れの中で、これは決定的に効いてくる。誰が、どの製品ページを、どの順で見て、何を比較し、何をダウンロードし、どの動画を最後まで観たか。一つひとつの行動が「熱量」として可視化され、検討が高まった瞬間には担当者へリアルタイムで通知が飛ぶ。マーケティングと営業が、同じ実名データの上で地続きにつながる。

導入の効果は、守りと攻めの二軸で立ち上がる。

守り:業務効率化でコストを削る

  • エンドユーザーがFAQや資料で自己解決できれば、届く問い合わせそのものが減る。
  • 情報・資料の一元化で、属人化と「探して送る」作業を解消する。
  • 見積・発注・各種申請をワークフロー化し、受付業務を自動化する。

攻め:関係を深め、売上を伸ばす

  • 匿名リードで終わらせず、実名の行動を起点に商談化・契約継続へつなぐ。
  • 自社専用の窓口で顧客接点を強化し、離反を防ぐ。
  • デジタルの顧客体験そのものを、競合との差別化に変える。

コストを削りながら、関係を深める。この両立こそがポータルの骨子だ。

「都度フォームより面倒では?」累積摩擦で考える

ここで、冷静な読み手ほど抱くであろう反論に、正面から答えておきたい。「資料を一度ダウンロードするフォームより、アカウントを作ってログインし続ける会員サイトのほうが、面倒ではないか?」

もっともな指摘だ。そして正直に認めるなら、初回の摩擦は同じではない。会員登録のほうが、その瞬間だけを見れば重い。

だが、視点を時間軸に広げると評価は逆転する。従来型は、資料のたびに毎回フォームへ氏名・会社・メールを打ち込む。二本目、三本目と資料を求めるほど、摩擦は積み上がっていく。対して会員サイトは、一度の登録さえ越えれば、以降のアクセスは摩擦ほぼゼロだ。回数を重ねるほど、累積摩擦は都度フォームを下回っていく。

さらに、その摩擦は提供価値で回収される。製品スペック、CADデータ、限定動画、顧客ランクに応じた価格の出し分け——継続的にアクセスしたくなる資産がそこにあるなら、一度の登録という対価は十分に見合う。問われるのは「登録は面倒か」ではなく、「登録の先に、戻ってくる理由があるか」だ。

借りた集客から、自社チャネルへ

最後に、視座を一段上げておきたい。

検索とは、突き詰めれば“借り物のトラフィック”だった。プラットフォームの仕様変更ひとつで、流入は増えも減りもする。その借地が高騰し、不安定になっているのが、いまだ。

だとすれば、これからの資産は「自社が直接所有するチャネル」に移る。実名の会員基盤は、検索アルゴリズムにも広告オークションにも左右されない、あなただけの直通路だ。指名で戻ってくる導線を自前で持つこと——マーケティングの重心を、流れて消えるフロー型から、積み上がるストック型へ移すこと。カスタマーポータルは、その転換を担う装置に他ならない。

まとめ:獲得後を握る者が、AI検索時代を制す

論を一直線に振り返ろう。検索という入口は構造的に細っている(事実)。だが指名は残り、ブランドの想起されやすさが流入を左右する(事実)。ゆえに認知への投資は復権し、メンタルアベイラビリティが効いてくる(仮説)。そしてカスタマーポータルのログイン頻度は、その見えなかった資産に計器を与える(仮説)。一度の登録を越えれば累積摩擦は都度フォームを下回り、実名の行動データは検索に依存しない自社チャネルという資産になる。

「集めて終わり」のマーケティングは、静かに終わりつつある。入口が高くつく時代の勝ち筋は、通した一人と長くつながり、指名で戻ってくる関係を設計することにある。

その第一歩を、まずは資料で確かめてほしい。カスタマーポータルの全体像と、実名データを商談化・継続へつなぐ仕組みをまとめている。

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出典・参考

  1. Ahrefs(2025年12月)AIによる概要のゼロクリック影響分析(AI概要表示時のオーガニックCTR低下率、日本市場の初計測)
  2. Seer Interactive調査(2024年6月〜2025年9月)に関する分析(オーガニックCTRの下落と、ブランド名引用時のクリック増)
  3. 日経クロストレンド:ゼロクリック問題とAI時代のマーケティング(SparkToro/Similarwebのゼロクリック率ほか)
  4. AI検索によるトラフィック減少に関するまとめ(LinkedIn・HubSpotの流入減報告)
  5. 「オーガニック検索が減っている」本当の理由(ブランド認知が高いほど影響を受けにくい構造)
  6. Byron Sharp『How Brands Grow』/Ehrenberg-Bass Institute(メンタルアベイラビリティ、カテゴリーエントリーポイント〈CEPs〉)
  7. John Dawes「The 95-5 Rule」LinkedIn B2B Institute(95-5の法則)

本稿で引用した各調査の数値は、公開時点で最新の一次情報を再確認のうえ掲載してください。特に統計値はAhrefs・SparkToro・Seer Interactive等の原典(発表元)へのリンク差し替えを推奨します。

最終更新日:2026-07-14
編集者:

中川 晃次

再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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