深夜や早朝にFAXで届く注文書、電話口で聞き取ってメモした数量、それを一枚ずつ基幹システムに手入力する——。長く続けてきた受発注のやり方が、繁忙期になると急に立ち行かなくなる。そんな経験はないでしょうか。
FAXや電話での受発注は「相手を選ばず送れる」「慣れている」という良さがある一方で、手入力の手間や聞き間違い、証跡の残りにくさといった課題を抱えています。この記事では、受発注業務をデジタル化してFAX・電話から脱却するための具体的なステップと、取引先を巻き込んで移行を成功させるポイントを解説します。
なぜ今も受発注はFAX・電話が残っているのか
デジタル化の話に入る前に、まずは「なぜFAX・電話がこれだけ残っているのか」を客観的に見ておきましょう。理由がわかると、脱却のハードルも見えてきます。
ひとつは、取引先との長年の慣習です。「これまでずっとFAXでやり取りしてきた」という関係のなかでは、片方だけがやり方を変えるのは簡単ではありません。次に、手軽さです。FAXは相手のIT環境を問わず送れ、電話はその場で確認まで済みます。相手がITに不慣れでも成立するという安心感があります。そして、「今のやり方で一応回っている」という現状維持の力も働きます。
つまり、FAX・電話が残るのは怠慢だからではなく、自社だけでは変えにくい構造があるからです。だからこそ、脱却は「自社の受注方法を変える」だけでなく「取引先に新しい発注方法を使ってもらう」という視点が欠かせません。この記事の後半で、その進め方を詳しく扱います。
FAX・電話での受発注が抱えるリスク・限界
現状を認めたうえで、あらためてFAX・電話“特有”のリスクを整理します。ここが、デジタル化を検討する出発点になります。
手入力・転記による人的ミス
FAXや電話で受けた注文は、担当者が基幹システムへ手で入力し直すことになります。数量の桁ずれや品番の写し間違いは避けにくく、1件のミスが誤出荷や誤請求につながります。同じ情報を人が何度も打ち直す構造そのものが、ミスの温床です。
証跡・履歴が残りにくい
電話注文は「言った・言わない」になりがちで、FAXの注文書も紙のまま保管すると後から探し出すのが大変です。誰が・いつ・何を注文したのかがすぐに追えないため、トラブル時の確認や、過去の取引の振り返りに時間がかかります。
聞き間違い・読み取りミス
かすれたFAX、手書きの数字、電話口での口頭のやり取り——。これらは読み取りや聞き取りのミスを生みやすく、確認のためにまた電話をかけ直す、という二度手間も発生します。
時間外・繁忙期に処理が集中し属人化する
FAXは営業時間に関係なく届き、電話は相手の都合で鳴ります。繁忙期には処理が一気に集中し、「あの取引先の対応はあの人しか分からない」という属人化も進みます。担当者が休むと業務が止まるリスクを抱えることになります。
受発注のデジタル化とは?主な選択肢
「デジタル化」と一口に言っても、手段はいくつかあります。自社の現在地を整理するために、代表的な選択肢を俯瞰しておきましょう。
| 手段 | 概要 | 向いているケース |
|---|---|---|
| メール・注文フォーム | メールやWebフォームで注文を受ける | まず紙をなくしたい/小規模から始めたい |
| EDI | 企業間で受発注データを標準形式で交換 | 大手取引先と大量・定型の取引がある |
| BtoB EC | ECサイトのように取引先が注文する | カタログ購買・定番品の反復注文が多い |
| 受発注ポータル(ワークフロー) | 取引先が専用ポータルで発注し、承認・処理まで仕組み化 | 見積・承認を含む取引を一気通貫にしたい |
それぞれコストや取引先の負担、柔軟性が異なります。どれが最適かは取引の性質によりますが、見積依頼から承認・受注確認までを含めて仕組みにしたいなら、受発注ポータル(ワークフロー)型が有力です。仕組み全体の考え方は、見積・受発注をワークフロー化する方法(全体像)で詳しく解説しています。
FAX・電話から脱却する5ステップ
ここからが本題です。アナログな受発注をやめるといっても、いきなり全取引を切り替えるのは現実的ではありません。次の5ステップで段階的に進めるのがおすすめです。
ステップ1:現状の棚卸し
まずは、どの取引先・どの品目がFAXや電話で来ているのかを書き出します。件数や頻度、繁忙期の偏りまで見えると、「どこから手をつけると効果が大きいか」が判断できます。ここを飛ばすと、優先順位のない移行になってしまいます。
ステップ2:置き換える対象を絞る
全部を一度に変えようとせず、件数が多く、内容が定型的な取引から着手します。効果が大きく、かつ切り替えやすいところから始めることで、成功体験を積みながら横展開できます。逆に、イレギュラーが多い取引は後回しにするのが無難です。
ステップ3:デジタルな受注窓口を用意する
次に、取引先が注文を送るためのデジタルな窓口を準備します。Web受注フォームや受発注ポータルを用意し、品名・数量・単価といった注文明細を入力してもらえる形にします。入力チェックを設けておけば、聞き間違い・書き間違いをその場で防げます。
ステップ4:取引先に移行してもらう
ここが脱FAXの最大の山場です。窓口を用意しても、取引先が使ってくれなければ何も変わりません。相手目線でメリットを伝え、操作の案内やサポートを用意し、しばらくは従来の方法と並行できる期間を設けることが、無理のない移行につながります。一斉に切り替えを迫るより、使いやすさを実感してもらいながら移ってもらう方が定着します。
ステップ5:定着とアナログの縮小
利用状況を見ながら、デジタル窓口の利用を定着させ、FAX・電話を段階的に減らしていきます。最初から100%を目指す必要はありません。まずは対象を絞った取引でデジタル比率を上げ、少しずつ範囲を広げていくのが現実的です。
脱FAX・脱電話を成功させるポイント
5ステップのなかでも、つまずきやすいのが「取引先の巻き込み」です。移行を成功させるために、押さえておきたいポイントを補足します。
取引先の抵抗に正面から向き合う
新しい発注方法は、取引先にとっては手間が増える変化にも映ります。だからこそ、「入力が楽になる」「注文履歴が残って安心」「確認の電話が減る」といった、相手にとってのメリットを具体的に伝えることが大切です。自社の効率化だけを前面に出すと、協力は得られにくくなります。
社内の運用が二重にならない工夫
移行期は、デジタルとアナログが混在します。受注担当の作業が二重になって疲弊しないよう、デジタルで受けた注文はそのままデータとして流れる仕組みにしておくことが重要です。
いきなり100%を目指さない
すべての取引先を一度にデジタルへ移すのは現実的ではありません。併用期間を許容し、対象を絞ってデジタル比率を上げていく——この段階的な進め方が、結果的に脱却を早めます。
受発注ポータルで脱FAX・脱電話を実現する
FAX・電話からの脱却を後押しするのが、取引先が自分で発注できる受発注ポータルです。取引先がポータル上で注文を入力すると、その内容がそのままデータ化されるため、手入力の転記そのものがなくなります。
たとえば tovira のワークフロー機能では、品名・数量・単価が並ぶ注文明細を明細(繰り返し)項目としてノーコードでフォーム化でき、数値の上下限や必須チェックで入力ミスも防げます。選択肢を商品マスタから取得すれば、型番や品名を選ぶだけで注文できるようになります。
さらに、受注時にはステータスに応じて自動でメールを送れるため、FAXでの返信や電話での確認連絡を、自動の受注確認メールに置き換えることができます。申請内容をメール本文に差し込めるので、案件ごとに文面を書き換える手間もありません。受注状況はステータスで可視化され、「あの人しか分からない」という属人化からも抜け出せます。基幹システムとのデータ連携にも対応しているため、受注データを後続の処理へつなげられます。
脱FAX・脱電話の要は「取引先に新しい発注方法を使ってもらう」こと。取引先向けの受注窓口をポータル上に用意できれば、取引先の発注→データ化→受注確認メール→社内処理までを一気通貫でデジタル化できる。
こうした仕組みの詳細はワークフロー機能のページをご覧ください。卸売業を例にした受発注効率化や基幹システムとの連携については、卸売業の受発注業務を効率化する方法|ワークフローと基幹システム連携でも解説しています。
まとめ
FAX・電話での受発注が残っているのは、取引先との慣習や手軽さという理由があるからです。頭ごなしに否定するのではなく、その背景を踏まえたうえで、手入力ミス・証跡の残りにくさ・聞き間違い・属人化といった課題を解消していくのがデジタル化の狙いです。
脱却は、現状の棚卸しから始め、効果の出やすい取引を絞って着手し、デジタルな受注窓口を用意して、取引先に無理なく移行してもらい、段階的にアナログを減らしていく——という5ステップで進めるのが現実的です。とりわけ「取引先の巻き込み」が成否を分けるため、相手目線のメリットを伝えることを忘れないでください。
まずは、自社の受発注がどれだけFAX・電話に頼っているかを書き出すところから始めてみましょう。受発注全体をどう仕組み化するかの全体像は、見積・受発注をワークフロー化する方法もあわせてご覧ください。
関連記事・出典
中川 晃次
再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。
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