「STEPとIGES、どちらを置けばいいですか」。カタログとCADデータの会員配布を準備する製造業の担当者から、よく出る質問です。
会員ダウンロードの狙いは、はっきりしています。誰が自社製品を検討しているかをつかみ、商談につなげることです。
ただしCADデータは、カタログPDFと同じようには運用できません。形式が複数ある。設計変更のたびに版が変わる。アセンブリを含めると容量が跳ね上がる。図面には、社外へ出せない情報も混ざります。
この記事では、CADデータを会員限定で提供するときの実務論点を扱います。ファイル形式の決め方、バージョン管理、容量、機密区分、NDAとダウンロード記録の関係です。
読み終えたときに、公開対象と配布形式と権限を書き出した「配布設計メモ」が作れる状態を目指します。
「CADデータの会員ダウンロード」とは|公開配布との違い
CADデータの会員ダウンロードとは、ログインした会員だけがCADデータを取得できる仕組みのことです。公開配布との差は、機能ではなく「渡した後に何が残るか」にあります。
公開配布では、ファイルは置いた時点で誰の手にも渡り、取得者は分かりません。会員ダウンロードでは、取得の前にログインが挟まります。その結果、次の3つが手元に残ります。
- 取得者の実名と所属企業
- 取得した型番、ファイル形式、日時
- その会員が過去に何を取得したかという履歴
CADデータは、カタログPDFより一段深い検討段階で取得されます。設計者が自分の図面に、その部品を組み込む直前だからです。
取得者が分かるかどうかで、営業の動き方が変わります。
会員提供に切り替えると、CADでは何が変わるか
CADデータを会員限定にすると、リードが取れるだけではありません。データそのものの管理が効くようになります。
具体的には次の4点です。
- 実名で追える:どの企業のどの担当者が、どの型番のデータを取得したかが残ります
- 版を統制できる:旧版を公開停止にしたあと、誰が旧版を持っているかを追えます
- 形式を絞れる:まず中間形式だけを置き、要望が集まった形式を後から追加できます
- 機密を分けられる:NDAを結んだ取引先にだけ、詳細形状を出せます
対になる注意点もあります。ログインを挟むと、ダウンロード数そのものは落ちます。設計者は比較検討の段階で、社名を明かすことを避けたがるためです。
そのため、外形寸法が分かる2D図面までは公開し、3Dデータから会員限定にする折衷案がよく採られます。会員化そのものが商談にどう効くかはカタログ・CADデータの会員提供で商談を増やすで扱っています。取得後の動きを追う仕組みはダウンロードの行動データを分析する、配布側の機能要件は会員限定ダウンロード機能でできることが参考になります。
ファイル形式をどう決めるか
形式は「増やす」ものではなく、「絞ってから増やす」ものです。最初から6形式を並べると、型番が1つ改訂されるたびに6回の書き出しが発生します。設計部門が反対する理由は、たいていここにあります。
主要な形式を、会員提供での置き方とあわせて並べました。
| 形式 | 次元 | 特徴 | 会員提供での置き方 |
|---|---|---|---|
| STEP(.stp/.step) | 3D | 国際規格ISO 10303。ソリッド形状を正確に扱える | 最初に用意する |
| IGES(.igs) | 3D | 古くから使われる中間形式。サーフェス中心 | STEPに次ぐ2番手 |
| Parasolid(.x_t) | 3D | 主要CADのカーネル形式。形状精度が落ちにくい | 要望が集まれば追加 |
| STL | 3D | 三角形メッシュ。3Dプリンタや簡易確認向け | 形状の流用に注意 |
| DXF/DWG | 2D | 取付寸法や外形の確認に使われる | 公開範囲を広く取れる |
| 3D PDF | 3D閲覧 | CADがなくても回転・計測できる | 購買・保守部門向け |
2Dが欲しい人と3Dが欲しい人は、役割が違う
同じ「CADデータが欲しい」でも、取得者の職種は割れます。
2DのDXFやDWGは、装置に組み込むときの取付寸法の確認に使われます。求めるのは設計者だけではありません。施工や保守の担当者も見ます。
3DのSTEPやParasolidは、干渉チェックと組立検証に使われます。取得者はほぼ設計者に限られます。
どちらを先に整えるべきかは、自社製品が「他社の装置に組み込まれる部品」か「据え付ける完成装置」かで変わります。前者なら3D優先、後者なら2Dの外形図から着手するのが現実的です。
中間形式を基本にし、ネイティブ形式は個別対応にする
配布の軸に置くのは中間形式(=特定のCADソフトに依存しない共通形式のこと)です。取引先が使うCADを事前に把握できないためです。
なかでもSTEPは、PTCのドキュメントでも仕様の全体がISO 10303と呼ばれると説明される国際規格です。多くの3D CADが読み書きに対応しています。
実際の提供例を見ると、スガツネ工業は3DでSTEP(AP203準拠)、IGES(Ver5.3準拠)、Parasolid、SATの4形式を、2DでDXFとDWGを公開しています。
ネイティブ形式(=各CADソフト固有の保存形式)は、標準では置きません。要望が来た型番だけ、個別に書き出して渡す運用にします。
バージョン管理と容量|運用が崩れる二大要因
CADの会員提供が止まる原因は、集客ではありません。更新が回らなくなることです。公開初月は整っていたデータが、半年後には最新版とずれる。これが最も避けたい着地点です。
設計変更を、どのタイミングで反映するか
ずれ方は2つに分かれます。サイト掲載版が設計リリースに追いつかない場合と、旧版を取得済みの取引先に変更が伝わらない場合です。後者のほうが影響は深刻です。
公開前に決めておく項目は次の4つです。
- 版数の表記:改訂記号をファイル名に含めるか、ページ上に表示するか
- 公開までのリードタイム:設計リリースから何営業日以内に差し替えるか
- 旧版の扱い:履歴として残すか、完全に差し替えるか
- 旧版取得者への通知:誰が、どの手段で連絡するか
旧版を黙って差し替えるのが、最も事故を招きます。
会員ダウンロードなら、旧版を取得した会員を一覧で抽出できます。改訂の連絡先が名簿として手に入るのは、公開配布にはない利点です。
容量とアセンブリは「簡略化」で解く
アセンブリ(=複数部品を組み合わせたモデル)をそのまま書き出すと、1型番で数十MB規模になることがあります。
ミツトヨのCADデータダウンロードでは、データを取付を主目的として一部簡略化したうえで、製品ごとに自己解凍形式のZIPへ圧縮して配布しています。
打ち手は2つです。
- 内部部品を省いた外形モデルを、配布用として別に持つ
- 関連ファイルをZIPでまとめ、配信側のファイルサイズ上限を事前に確認する
配布形式と権限の要件を洗い出す段階の方へ。ダウンロード管理の機能一覧をまとめた資料をご用意しています。資料をダウンロードする
機密区分とNDA|「誰に出すか」を先に決める
形式より先に決めるべきは、公開区分です。ここが曖昧なまま置き場を作ると、法務の確認で公開が止まります。
公開・会員限定・NDA限定の3段階に切る
区分は3段階で足ります。それぞれの対象と手続きを整理しました。
| 区分 | 対象データ | 見せる相手 | 必要な手続き |
|---|---|---|---|
| 公開 | 外形寸法図、カタログPDF | 誰でも | なし |
| 会員限定 | 標準品の3Dモデル、詳細カタログ | 登録・承認済みの会員 | 会員登録と利用条件への同意 |
| NDA限定 | カスタム品の図面、内部構造を含むモデル | NDA締結先の指定担当者 | NDA締結と個別の権限付与 |
判断に迷いやすいのは、標準品の3Dモデルです。内部構造まで再現したモデルは、NDA限定側へ寄せる検討が要ります。
NDAとダウンロード記録をひもづける
不正競争防止法上の営業秘密として保護されるには、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす必要があります。経済産業省の営業秘密の保護・活用についてでは、秘密管理性を満たす措置として、アクセス権の設定・制限、マル秘表示、秘密保持契約の締結などが挙げられています。
会員ダウンロードは、このうちのアクセス制限を実装したものと位置づけられます。NDA締結済みかどうかを会員の属性として持たせ、締結先にだけ詳細データを表示する。誰がいつ何を取得したかのログを残す。この2つがそろうと、管理の実態を説明しやすくなります。より広い管理策は秘密情報の保護ハンドブックにまとまっています。
例えばtoviraでは、取引区分や締結状況を会員のロールとして持たせ、表示するファイルを切り替える考え方をとっています。設計の考え方はユーザーロールによる権限設計で確認できます。
公開までの4ステップ
着手の順番を間違えると、手戻りが出ます。
- STEP1|公開区分を決める(担当:設計・法務/目安2週間):型番ごとに公開・会員限定・NDA限定を割り当てます
- STEP2|配布形式をそろえる(担当:設計・技術/目安3〜4週間):まず2形式に絞り、書き出し手順を決めます
- STEP3|版と容量を整える(担当:設計・情報システム/目安2週間):版数表記を統一し、簡略モデルを用意します
- STEP4|権限と計測を設定する(担当:マーケ・情報システム/目安2週間):ロールを割り当て、ダウンロードログの取得を確認します
順番を逆にすると、置き場を作ってから「出せないデータ」に気づくことになります。
よくある質問
会員登録を必須にすると、ダウンロード数は減りますか
短期的には減ります。ただし、取得者が分からない状態のダウンロード数は、営業活動に使えません。評価指標を、実名で取得された件数に置き換えてください。2D図面を公開のまま残せば、減少幅は抑えられます。
最初に用意すべき形式はどれですか
3DはSTEP、2DはDXFの2形式から始めるのが無難です。この2つで多くのCAD環境をカバーできます。IGESやParasolidは、問い合わせが来てから追加しても遅くありません。
NDAを結んでいない相手に3Dデータを出しても問題ありませんか
標準品の外形モデルなら、利用条件を明示して会員限定で出す運用が一般的です。ただしカスタム品の図面や、内部機構が読み取れるモデルは別です。公開区分の設計段階で、法務と線引きを決めておいてください。
旧版のCADデータは残すべきですか
残す方針を推奨します。すでに旧版で設計を進めている取引先がいるためです。ただし最新版と混在させず、改訂履歴として別に置き、最新版がどれかを明示してください。
まとめ|配布設計メモを1枚にする
CADデータの会員ダウンロードは、置き場を作る作業ではありません。何を、どの形式で、誰に、どの版で渡すかを決める作業です。この記事で扱った4点を整理します。
- 公開区分を、公開・会員限定・NDA限定の3段階に切る
- 配布形式は中間形式のSTEPとDXFから始め、要望が来てから増やす
- 版数表記・リードタイム・旧版の扱い・旧版取得者への通知を先に決める
- NDA締結状況をロールに持たせ、ダウンロードログとひもづける
この4点を1枚に書き出してから、要件定義に入ってください。集客側の設計とあわせるなら、製造業のWebリード獲得も参考になります。
tovira のカスタマーポータルは、公開区分ごとのファイル出し分けと、実名でのダウンロード記録の取得に対応しています。自社の型番データで再現できるかは、実際の画面でご確認ください。デモを依頼する
出典
- 経済産業省 知的財産政策室『営業秘密の保護・活用について』 meti.go.jp(参照:2026-07-26)
- 経済産業省 知的財産政策室『秘密情報の保護ハンドブック』 meti.go.jp(参照:2026-07-26)
- PTC『STEPファイルについて』 support.ptc.com(参照:2026-07-26)
- スガツネ工業『CADデータのファイル形式を教えてください』 faq.sugatsune.co.jp(参照:2026-07-26)
- ミツトヨ『CADデータダウンロード』 mitutoyo.co.jp(参照:2026-07-26)
- tovira『カタログ・CADデータの会員提供で商談を増やす』 tovira.jp(参照:2026-07-26)
中川 晃次
再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。
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