01

ゴールは「操作を覚えてもらうこと」ではない

使い始めの立ち上がりとは、契約したお客様が自力で成果を出せるようになるまで一緒に走る期間のことです。

目指すのは「手が離れる」状態

お客様が業務で成果を出し、こちらの支援なしで使い続けられるところまでが範囲です。

期間は製品の性質で変わる

単体で使える製品なら2週間〜1か月。他システムとの接続や社内ルールの変更を伴うなら3か月以上。

先に決めるのは「終わりの定義」

設定が終わったかではなく、お客様の業務が1周回ったかで置きます。曖昧だと支援が終わりません。

02

施策を足しても動かないのは、止まっている場所を知らないから

動画を作る、ヘルプ記事を増やす、説明会を分ける。場所が分からないまま足すと、使われない資産が増えます。

38.3%

導入の効果を「非常に実感している」と答えた人の割合(2024年8月・うるるBPO調査)

47.9%

実感できない理由の上位は「機能が多くて使いこなせない」

最初の設定で止まっているお客様に、活用セミナーを案内しても届きません。

設定は終えたが業務に入っていないお客様に、操作マニュアルを送っても変わりません。

03

契約から自走までを4区間に割ると、止まる場所が見える

1本の期間として扱う限り、どこに手を入れるかは決まりません。まず分解します。

契約

1

初期設定

2

初回操作

3

業務組み込み

4

横展開・自走

手が離れる

1

初期設定

やること

アカウント発行、権限設定、今あるデータの取り込み

止まっているサイン

契約から2週間ログインがない

主な原因

情報システム部門の承認待ち、移すデータの整形が終わらない

2

初回操作

やること

最初の1つの作業を、最後まで通してやり切る

止まっているサイン

ログインはあるが、主な機能の実行が0件

主な原因

どこから始めるか分からない、管理者しか触っていない

3

業務組み込み

やること

毎日の仕事の流れに組み込む

止まっているサイン

使ってはいるが、週1回に満たない

主な原因

社内の業務ルールが未整備、前のツールと二重で回している

4

横展開・自走

やること

使う人を増やし、社内で回るようにする

止まっているサイン

使う人が管理者1名から増えない

主な原因

社内向けの説明資料がない、追加ユーザーへの教育が人任せ

サインは感覚ではなく、記録で持つ。そろえたいのは5つ

最後のログインからの日数
最初の作業を終えたかどうか
主な機能ごとの実行回数
管理者以外に使っている人数
導入から30日間に届いた質問の中身

質問の文面が、区間の特定に最も効きます。「CSVの列名が合わない」なら区間1、「毎回手作業で回らない」なら区間3です。

04

全員に同じ支援はできない。手のかけ方を3つに分ける

分ける軸は契約金額だけではありません。社内に推進役がいるかどうかも見ます。

1社ずつ伴走する

契約金額が大きい、業務のやり方を変える必要があるお客様。個別の打ち合わせ、定例会、設定の代行。

向く区間 / 3 業務組み込み

まとめて支援する

同じ業種・同じ課題でくくれる中間層。集合セミナーや、業種別のひな形の配布。

向く区間 / 2 初回操作・4 横展開

仕組みで支援する

全てのお客様、特に小規模契約。動画、マニュアル、よくある質問、画面内の案内、順を追ったメール。

向く区間 / 1 初期設定・2 初回操作

少人数のチームなら、区間1と2を仕組みで標準化し、空いた時間を区間3の伴走に寄せる形が現実的です。

仕組みに寄せすぎると、不満や要望が拾えなくなります。3か月に1回はヒアリングを残してください。

05

動画・マニュアル・質問集は、置き場所を1か所にする

数をそろえることより、迷ったその場で探さずに見つかることが条件です。3つは代わりではなく、使う場面が違います。

動画

初回に全体像をつかむとき

マニュアル

手順を正確に参照するとき

よくある質問

つまずいた瞬間に答えだけが欲しいとき

ログインする1か所に集約すると、こうなる

探す時間が減ります。初期設定の動画は区間1、基本操作の動画は区間2、と対応づけて置きます。

管理者向けと一般向けを役割で出し分けられるので、最初に見せる量を抑えられます。

誰がどこまで見たかが残ります。この記録が取れると、止まっている区間の特定が楽になります。

同じ内容を3つの媒体で作ると更新が追いつきません。正となる媒体を1つ決め、他はそこへ誘導します。

06

月ごとに見る数字は、4つで足りる

指標を増やすと運用が止まります。月次で追える範囲に絞ります。

METRIC 01

立ち上がりが終わった割合

成果で定義したうえで測ります。下がったら、まず区間3を疑います。

METRIC 02

終わるまでの日数

長引いたお客様は離れやすい傾向があります。真ん中の値と、最も遅い1割を見ます。

METRIC 03

1社で使っている人の割合

管理者1名のままなら、区間4が課題です。

METRIC 04

導入から30日の質問件数

件数より中身の偏りを見ます。集中する箇所が、次に直す場所です。

4つを同時に直そうとしないでください。毎月の定例で1つだけ対象を決め、翌月に結果を確認すると、原因と結果の対応が取れます。

SUMMARY

覚えておく3つの原則

改善とは施策を増やす作業ではなく、止まっている場所を見つけて直す順番を決める作業です。

まず4区間に割る

1本の期間として見ている限り、どこに手を入れるかは決まらない。

終わりを成果で定義する

設定完了ではなく、お客様の業務が1周回ったかどうかで置く。

直すのは1か所だけ

停滞したお客様を4区間に分類し、最も多い区間から手を付ける。

契約は取れているのに、3か月後には使われなくなっている。SaaSを提供する企業のカスタマーサクセス担当者から、繰り返し聞く話です。

対策として操作動画を作り、ヘルプ記事を増やし、キックオフを分ける。それでも完了率が動かないことがあります。原因は施策の質ではなく、顧客がどこで止まっているかを特定しないまま施策を足していることです。

この記事では、SaaSのオンボーディングを改善する手順を設計の側から整理します。導入プロセスを4区間に割ってつまずき箇所を特定する方法、顧客ごとの手のかけ方、動画とポータルの使い方、改善サイクルの指標までを扱います。

読み終えたときの到達点は、自社のオンボーディングで最初に直す1か所が決まっている状態です。

SaaSのオンボーディングとは|契約から「自走」までの伴走期間

SaaSにおけるオンボーディングとは、契約した顧客が自力で価値を出せる状態になるまで提供側が伴走する期間です。採用文脈の新入社員オンボーディングとは別物です。

ゴールは操作を覚えてもらうことではありません。顧客が業務で成果を出し、提供側の手を離れて使い続けられる状態、いわゆる「自走」への到達です。

期間の目安はサービスの性質で変わります。ツール単体で完結する製品なら2週間から1か月、既存システム連携や社内規程の変更を伴う製品なら3か月以上が現実的です。

ただし、期間そのものより先に決めるべきものがあります。

それは「完了の定義」です。曖昧なまま伴走を続けると、終わらない支援が発生します。担当者ごとに判断が違えば、改善の効果も測れません。

なぜ施策を足しても改善しないのか

改善の相談で最も多いのが、施策の追加から入るパターンです。動画を作る、ヘルプ記事を増やす、キックオフを2回に分ける。止まっている場所を知らないまま足すと、使われない資産が増えます。

うるるBPOが2024年8月に実施した調査では、SaaS導入の効果を「非常に実感している」人は38.3%でした。実感できない理由の上位には「機能が複雑(多機能)で十分に使いこなせていない」が47.9%で挙がっています(株式会社うるる『SaaSを利用した業務の実態調査』)。

「使いこなせていない」という一言の中身は、顧客によってまるで違います。

初期設定で止まっている顧客と、設定は終えたが業務に組み込めていない顧客では、打つべき手が正反対です。前者に活用セミナーを案内しても届きません。後者に操作マニュアルを送っても状況は変わらない。

つまずき箇所の特定|オンボーディングを4区間に割る

改善の起点は、施策ではなく分解です。契約から自走までを1本の期間として扱う限り、どこに手を入れるかは決まりません。

ここでは、オンボーディングを次の4区間に割ります。

離脱の原因は、4区間に割ると特定できる SaaSのオンボーディングを左から右へ4区間に分けた図。区間1はアカウント発行と初期設定。区間2は最初の1件を完了させる初回操作。区間3は日常の業務フローへの組み込み。区間4は社内での横展開と自走。 1 アカウント初期設定 2 最初の1件を完了 3 業務フローに組み込む 4 社内で横展開
図1:離脱の原因は、4区間に割ると特定できる

区間ごとに、顧客がやること・離脱のサイン・止まる主な原因を整理しました。

区間 顧客がやること 離脱のサイン 止まる主な原因
①初期設定 アカウント発行、権限設定、既存データの投入 契約から2週間ログインなし 情報システム部門の承認待ち、移行データの整形が終わらない
②初回操作 最初の1タスクを最後まで完了する ログインはあるが主要機能の実行が0件 どこから始めるかが分からない、管理者しか触っていない
③業務組み込み 日常業務のフローに組み込む 実行はあるが利用が週1回未満 社内の業務ルールが未整備、旧ツールと二重運用になっている
④横展開・自走 利用者を増やし、社内で回す 利用者が管理者1名から増えない 社内向けの説明資料がない、追加ユーザーの教育が属人化

区間が違えば、手当ても違います。区間①で止まる顧客に必要なのは、権限とデータ投入の代行に近い支援です。区間③で止まる顧客には、業務ルールの設計に踏み込んだ相談相手が要ります。

区間ごとに「離脱のサイン」を決める

サインは感覚ではなく、ログで持ちます。最低限そろえたいのは次の5つです。

  • 最終ログインからの経過日数
  • 初回タスクの完了有無(機能名まで特定する)
  • 主要機能ごとの実行回数
  • 管理者以外の利用者数
  • 導入後30日間に届いた問い合わせの内容

最後の1つを軽視しないでください。問い合わせの文面は、区間の特定に最も効きます。「CSVの列名が合わない」なら区間①、「毎回手でやっていて回らない」なら区間③です。

完了の定義を、操作ではなく成果で置く

「初期設定が終わった」を完了にすると、実態と乖離します。使われていない顧客が、完了率の分子に入るためです。

置くべき定義は、顧客の業務が1周回ったかどうかです。請求管理のSaaSなら「初回の請求書を実データで発行し、締め日を1回越えた」が完了になります。

この定義は社内で1つに統一します。CSと営業で別々の完了を見ていると、改善の議論がかみ合いません。

手のかけ方を決める|ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの配分

全顧客に同じ支援を提供する前提を、まず外します。CS人員が限られる以上、手のかけ方は顧客ごとに変えるしかありません。

支援の濃度は、一般に3つのモデルで整理されます。ハイタッチ(=個社別に伴走する方式)、ロータッチ(=複数社をまとめて支援する方式)、テックタッチ(=人を介さず仕組みで支援する方式)です。

モデル 主な対象 手段 1社あたりの工数感 向く区間
ハイタッチ 契約金額が大きい、業務改変を伴う 個別キックオフ、定例会、設定代行 大きい ③業務組み込み
ロータッチ 中間層、同じ業種・課題でまとめられる 集合セミナー、業種別のテンプレート配布 中程度 ②初回操作、④横展開
テックタッチ 全顧客、特に小規模契約 動画、マニュアル、FAQ、アプリ内ガイド、ステップメール 小さい ①初期設定、②初回操作

配分を契約金額だけで決めないでください。金額が小さくても、社内に推進役がいない顧客は区間③で止まります。逆に金額が大きくても、情報システム部門が強い顧客は区間①を自力で越えます。見るべきは、契約金額と推進体制の2軸です。

少人数のCSチームで現実的なのは、区間①②をテックタッチで標準化し、空いた工数を区間③のハイタッチに寄せる形です。

一方で、テックタッチに寄せすぎる副作用もあります。人が接する機会が減ると、顧客の不満や要望が拾えません。四半期に1回はヒアリングを残してください。

動画とポータルで「聞かなくても進める」状態をつくる

テックタッチを機能させる条件は、コンテンツの量ではありません。顧客が迷ったその場で、探さずに見つけられることです。

顧客の担当者が並行して覚えるツールは、自社のSaaSだけではありません。2024年時点で企業の80.6%がクラウドサービスを利用しています(総務省『令和7年版 情報通信白書|クラウドサービス』)。

そこで有効なのが、動画とドキュメントを顧客専用のポータルに集約する構成です。探す時間が減り、ロール別の出し分けと閲覧記録が同時に手に入ります。カスタマーポータル(=顧客専用のログイン型サイト)の基本は、カスタマーポータルとはをご覧ください。

動画は「作る」より「置く場所」で決まる

オンボーディング動画をメール添付や共有リンクで配ると、資産が散ります。視聴されたかも分かりません。

置き場所は、顧客がログインする1か所に固定します。初期設定動画は区間①、基本操作動画は区間②という対応づけです。管理者向けと一般向けをロールで出し分けると、初回の情報量を抑えられます。

区間の特定が楽になるのは、視聴記録が取れたときです。toviraの動画・セミナー機能は、誰がどの動画をどこまで見たかを記録し、視聴履歴を顧客ごとのタイムラインに統合します。動画の構成や撮影は、別の切り口で扱う領域です。

マニュアル・FAQとの役割分担を決める

動画・マニュアル・FAQは代替関係ではありません。使われる場面が違います。

  • 動画:初回に全体像をつかむとき
  • マニュアル:手順を正確に参照するとき
  • FAQ:つまずいた瞬間に答えだけが欲しいとき

同じ内容を3媒体で作ると更新が追いつきません。正となる媒体を1つ決め、他はそこへ誘導します。全文検索と目次を持つマニュアル機能のような形なら、参照先を1本化しやすい構成です。FAQ側の設計はFAQサイトの作り方が参考になります。

動画・マニュアル・FAQを1か所に集約する構成は、資料にまとめています。自社の導入フローに当てはめてご検討ください。資料をダウンロードする

改善サイクル|見る指標は4つでいい

指標を増やすと、運用が止まります。

月次で追える範囲に絞ります。最初に見るべきは次の4つです。

この4指標だけで、直すべき区間が絞り込める オンボーディング改善で月次に見る4つの指標を並べた図。オンボーディング完了率は完了の定義を成果で置く。完了までの日数は遅い顧客ほど離脱しやすい。組織内の利用者比率は1社に何人定着したかを示す。初期の問い合わせ件数はつまずきの総量を映す。 オンボーディング完了率 完了の定義は成果で置く 完了までの日数 遅い顧客ほど離脱しやすい 組織内の利用者比率 1社に何人定着したか 初期の問い合わせ件数 つまずきの総量を映す
図2:この4指標だけで、直すべき区間が絞り込める
  • オンボーディング完了率:定義を成果で置いたうえで測ります。下がったら、まず区間③を疑います
  • 完了までの日数:長期化した顧客は離脱しやすい傾向があります。中央値と最も遅い1割を見ます
  • 組織内の利用者比率:1社で何名が実際に使っているか。管理者1名のままなら区間④が課題です
  • 導入後30日の問い合わせ件数:件数より内容の偏りを見ます。質問が集中する箇所が、次に直す場所です

4つを同時に改善しようとしないでください。月次の定例で1つだけ対象を決め、翌月に結果を確認する。原因と結果の対応が取れます。

指標を回すには、顧客の行動が記録されていることが前提です。閲覧・ダウンロード・視聴を集計し、通知まで自動化する仕組みは、分析・通知機能のような形で用意できます。問い合わせ自体を減らす打ち手は、問い合わせ対応の工数を削減する方法で扱っています。

よくある質問

オンボーディング完了の定義はどう決めればよいですか

「顧客の業務が1周回ったか」で置きます。設定完了や研修受講は途中経過です。顧客が最初に価値を得る瞬間を特定し、その到達をもって完了とします。

ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチはどう使い分けますか

契約金額と、社内に推進役がいるかの2軸で分けます。少人数のCSチームなら、区間①②をテックタッチで標準化し、区間③にハイタッチを寄せる配分が扱いやすい形です。

オンボーディング動画は自社で作るべきですか

初期は自社制作で問題ありません。画面録画に音声を重ねる形でも、区間ごとに必要な内容が揃えば機能します。品質より、置き場所と視聴記録を優先します。

CS担当が2〜3名でも改善は進められますか

進められます。直近の停滞顧客を4区間に分類し、最も多い区間を1つだけ直してください。人数が少ないほど、対象を絞る効果が出ます。

まとめ|最初に直す1か所を決める

SaaSのオンボーディング改善は、施策を増やす作業ではなく、止まっている場所を特定して直す順番を決める作業です。手順を整理します。

  1. 契約から自走までを4区間(初期設定/初回操作/業務組み込み/横展開)に割る
  2. 区間ごとの離脱サインをログで持ち、完了の定義を成果で置き直す
  3. 契約金額と推進体制の2軸で、ハイタッチとテックタッチの配分を決める
  4. 動画・マニュアル・FAQをポータルに集約し、4つの指標で月次に回す

まず試していただきたいのは、直近30日で停滞・解約した顧客を4区間に分類することです。分類できないなら、足りないのは施策ではなく行動ログです。偏りがあれば、そこが最初に直す1か所です。

toviraのカスタマーポータルは、動画の視聴記録とマニュアルの閲覧ログを同じ基盤で取得します。どの顧客がどの区間で止まっているかを、実際の画面でご確認ください。デモを依頼する

出典

  • 株式会社うるる(うるるBPO)『SaaSを利用した業務の実態調査』 uluru.biz(参照:2026-07-26)
  • 総務省『令和7年版 情報通信白書|クラウドサービス』 soumu.go.jp(参照:2026-07-26)
  • tovira『動画・セミナー機能』 tovira.jp(参照:2026-07-26)
  • tovira『分析・通知機能』 tovira.jp(参照:2026-07-26)
編集者:

中川 晃次

再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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