「今期は既存顧客の深耕でいきます」。営業会議でそう宣言したあと、「で、どの取引先から当たりますか」と聞かれて言葉に詰まった。取引先向けの会員サイトを運用するBtoB企業で、よく起きる場面です。

ログは溜まっています。ログイン数も、ページビューも、資料のダウンロード件数も月次で出ている。それでも、その数字から「A社が動いている」とは言えません。

この記事で扱うのは、会員の閲覧データから熱量の高い顧客を見つける手順です。既存顧客ならではの読み方、平常時との差分の取り方、追加提案の余地を示す4つの閲覧パターン、契約データとの突き合わせまでを順に解説します。

読み終えたときに、自社の会員データから「最初に当たる5社」を絞り込める状態を目指します。

熱量の高い顧客とは|既存の取引先の中にもいる

熱量の高い顧客とは、追加の購買や契約変更の検討が社内で動き始めている顧客を指します。この定義は新規の見込み客にも既存の取引先にも当てはまります。違うのは、検討がどこから始まるかです。

  • 新規の見込み客:課題が先にある。困りごとを言語化し、解決策を探した結果として自社のサイトにたどり着く
  • 既存の取引先:接点が先にある。日常業務で会員サイトを使ううちに、隣の製品や上位のプランに目が向く

新規の見込み客は、探しに来た時点で意思を持っています。だから1回の訪問にも意味が出ます。既存の取引先はそうではありません。納期を確認するついでに別のページを開いた、ということが日常的に起こります。

兆候が小さく、業務の動作に埋もれる。これが既存顧客の熱量を見つけにくくしている理由です。取引先との接点がデジタルに移るほど行動は記録として残りますが(DCX(デジタル顧客体験)とは)、残っていることと使えていることは別です。

既存顧客の閲覧数は、多くても意味を持たない

閲覧数の多い順に取引先を並べても、追加提案の相手は見つかりません。上位に来るのは「よく使っている取引先」であって、「検討している取引先」ではないためです。

既存顧客は業務でログインします。納期の確認、マニュアルの参照、部品番号の照会、請求書の取得。いずれも検討度とは無関係の動作です。取引額の大きい会社ほど日常の操作が多く、閲覧数のランキングは実質的に取引額のランキングになります。

新規リードの1回の訪問は関心の表明ですが、既存顧客の1回は業務動作にすぎません。

同じ「閲覧1回」でも意味が違う。既存顧客を扱うときは、量という物差しを一度手放す必要があります。

平常時のベースラインを引き、そこからのズレを探す

既存顧客の熱量は、量ではなく差分に表れます。取引先ごとに「平常時はこういう使い方をする」という基準を持ち、そこから外れた動きだけを拾う。これが出発点です。

ベースラインとして記録するのは、月あたりのログイン回数、よく見るページ群、動いている会員の人数の3点で足ります。1〜3か月ぶんを取れば、その取引先の平常運転が見えてきます。

拾うズレは4種類です。

  • いつもと違うページ:普段は納期照会しか開かない取引先が、製品カタログや技術資料を見た
  • いつもと違う人:長く動いていなかった会員IDが、あるいは新しく登録された会員がアクセスした
  • いつもと違う頻度:月2回だったログインが、2週間で8回に増えた
  • いつもと違う期間:数か月動きのなかった取引先が、3日間に集中してアクセスした
既存顧客の熱量は、量ではなく平常時とのズレに表れる 平常時のベースラインから拾うズレを4種類に分類した図。いつもと違うページは、普段見ないカタログを開く動き。いつもと違う人は、未稼働の会員IDが動く変化。いつもと違う頻度は、月2回が2週間で8回に増える変化。いつもと違う期間は、数か月ぶりに集中して見る動き。 いつもと違うページ 普段見ないカタログを開く いつもと違う人 未稼働の会員IDが動く いつもと違う頻度 月2回が2週間で8回に いつもと違う期間 数か月ぶりに集中して見る
図1:既存顧客の熱量は、量ではなく平常時とのズレに表れる

大事なのは、ベースラインを全社平均で引かないことです。全社平均を閾値にすると、利用量の多い大口取引先が常に上位に居座ります。小口の取引先で起きた大きな変化は、その下に埋もれます。基準は取引先ごとに持ってください。

なお、ログイン前の匿名アクセスを企業単位で推定する用途には、企業単位のアクセス解析のような別の仕組みが要ります。本記事でいう会員の閲覧データは、ログイン後に実名で残る記録を指します。

追加提案の余地を示す4つの閲覧パターン

ズレが出たからといって、すべてが提案の機会になるわけではありません。追加提案につながる形は、実務上4つに絞られます。

4つのパターンを、閲覧に表れる動きと営業の初動まで並べました。

パターン 閲覧に表れる動き 読み取れる状態 営業の初動
①未契約カテゴリの閲覧 取引実績のない製品カテゴリのページに複数回アクセスしている 横展開の検討が始まっている 該当カテゴリの導入事例を持って訪問する
②上位グレード・オプションの閲覧 契約中の製品の上位モデルや追加オプションの仕様ページを開いている 現行の構成では足りない課題が出ている 現在の利用状況を確認したうえで比較資料を出す
③新しい担当者の登場 未稼働だった会員ID、または新規登録の会員がアクセスした 検討に関わる人が社内で増えた 担当変更か新規案件かを既存の窓口に確認する
④条件面の資料の再取得 見積書式、技術仕様書、契約条件のページを短期間に取り直している 稟議や社内調整の段階に入っている 見積の前提条件をこちらから先に提示する

どれも「見ただけ」の段階であり、受注を約束するものではありません。

ただ、担当営業が架電する順番を決める材料としては十分に働きます。勘で並べていた訪問先の順序に、共通の根拠が入るためです。

契約していない製品カテゴリを見ている

横展開のシグナルです。カタログの中で、取引実績のないカテゴリのページに滞在している状態を指します。

卸売業なら、これまで扱っていないブランドの商品ページ。製造業なら、納入実績のない別ラインの部品ページ。どちらも「今の取引の外側」に目が向いている動きです。

既存顧客の場合、製品情報の会員限定公開で取引先ごとの価格を出し分けていれば、閲覧の時点で条件まで見えています。同じページを新規の見込み客が見るより、購買までの距離は短い状態です。

同じ会社から「新しい顔」が増えた

会員IDの増加も兆候になります。購買担当1名だけだった取引先に、設計担当や品質保証の担当者が登録した。あるいは、別拠点の会員が初めてログインした。こうした動きです。

BtoBの検討は、関与する人数が増えると前に進みます。ワンマーケティングの「BtoB購買プロセス白書2025」では、高価格帯の取引における平均関与人数が18.3人と報告されています(syncAD)。人が増えること自体が、検討が社内で広がったサインです。

見積・仕様書・条件面の資料を取り直している

稟議の準備段階で出やすい動きです。半年前に購買担当がダウンロードした仕様書を、同じ会社の別の担当者が改めて取得する。社内で回覧されている可能性が高い状態を示します。

資料ダウンロード機能で資料の種類ごとに検討段階のタグを付けておくと、この判別は機械的に行えます。概要資料と、価格表・技術仕様書・契約条件書とでは、示している段階が違うためです。

契約データと閲覧データを突き合わせる

既存顧客にしかできない分析があります。購買履歴との突き合わせです。新規の見込み客には「何を買っているか」がありませんが、既存の取引先にはあります。閲覧しているのに契約していないものが、そのまま提案の余地になります。

手順は4つです。

  1. 取引先ごとの契約製品リストを用意する(担当:営業事務/基幹システムから月次で出力)
  2. 会員IDを取引先コードに紐づける(担当:情報システム/会員登録時の必須項目にする)
  3. 閲覧ページを製品カテゴリに正規化する(担当:マーケティング/カタログの階層をそのまま使う)
  4. 「契約なし × 閲覧あり」のセルを抽出する(担当:営業企画/月次で一覧を出す)

手間がかかるのはSTEP3です。ページ単位のログのままでは突き合わせができないため、どのURLをどのカテゴリに寄せるかを先に決めておきます。

顧客ランク別の価格表示を運用している場合、抽出結果の意味はさらに濃くなります。その取引先向けの価格が表示された状態で、未契約の製品が見られているためです。

会員の閲覧データをどこまで取得できるかを確かめたい方へ。toviraでは、カスタマーポータルの機能一覧をまとめた資料をご用意しています。資料をダウンロードする

同じデータは、離れそうな取引先も教える

視点を反転させます。追加提案の余地を探す仕組みは、そのまま離反の兆候を拾う仕組みになります。見ているものが同じ差分だからです。

下向きの動きとして拾うのは次の5つです。

  • ログイン頻度が3か月続けて下がっている
  • 主要な担当者のログインが止まった(担当交代か、社内での関心の低下)
  • 問い合わせチケット管理への起票が急に増えた
  • 解約条件、返品手続き、契約更新のページを開いている
  • マニュアルの初歩的なページに戻っている(運用が定着していない可能性)

熱量が上がる動きと下がる動きを、同じ画面に並べます。

営業の優先順位は、伸ばす相手と守る相手の両方を見て初めて決まります。片側だけを見た一覧では、動く順番を間違えます。

見つけた顧客を営業に渡すまでを設計する

抽出できても、担当営業に届かなければ売上は動きません。仕組みとして回すには、4つの工程を踏みます。

  1. 平常時を記録する(担当:マーケティング/初回1〜2週間)取引先ごとのログイン回数、閲覧ページ群、稼働人数を1〜3か月ぶん保存します
  2. 検知条件を文章で書き出す(担当:営業企画/半日)「未契約カテゴリのページを、7日以内に2人以上が閲覧」のように日本語で書いてから、設定に落とします
  3. 担当営業に通知する(担当:情報システム/設定は数時間)通知先は担当営業とその上長。既存顧客は担当が決まっているため、配信先の設計は新規リードより単純です
  4. 結果を戻して条件を直す(担当:営業企画/四半期ごと)通知した案件がどうなったかを回収し、空振りの多い条件を外します
この4ステップで、閲覧データは追加提案の起点になる 閲覧データを営業に渡すまでの工程を左から右へ示した図。ステップ1は平常時を記録する。ステップ2は検知条件を書き出す。ステップ3は担当営業へ通知する。ステップ4は結果を戻して条件を直す。 1 平常時を記録する 2 検知条件を書き出す 3 担当営業へ通知する 4 結果を戻して条件を直す
図2:この4ステップで、閲覧データは追加提案の起点になる

STEP4を省くと、条件が固定されたまま精度だけが落ちていきます。取引先の顔ぶれも製品構成も、1年経てば変わるためです。

例えばtoviraの分析・通知機能では、閲覧・比較・ダウンロード・視聴といった行動をダッシュボードで集計し、熱量が閾値を超えた時点で担当者へ通知する設計をとっています。アラートは「条件 × アクション」の形で組み、SlackやWebhookで外部に流すこともできます。

通知は「担当営業がまだ知らないこと」だけにする

既存顧客向けの通知が使われなくなる原因は、件数の多さより中身にあります。毎週訪問している取引先の通常閲覧が流れてきても、担当営業には新しい情報がありません。

そこで除外条件を先に決めます。定例接触のある取引先の平常閲覧、自社スタッフのテストログイン、同一人物の連続アクセス。この3つを外すだけで、通知は実務で読める量に落ち着きます。通知文には「誰が、どのページを、いつ」という中身まで含めてください。

見る前に決めておくこと

会員の閲覧履歴は、特定の個人に結びつく情報です。取得と利用にあたっては、利用目的を特定し、あらかじめ公表または通知しておく必要があります(個人情報保護委員会 法令・ガイドライン等)。会員規約とプライバシーポリシーに、行動履歴を営業活動へ利用する旨を記載しておきます。

社内側で決めておく点も2つあります。

  • 営業の場で「御社の◯◯さんが△△を見ていましたね」と直接は伝えない。監視されている印象を与えます
  • 閲覧データは訪問のきっかけを作る材料に留め、提案の中身は取引先との対話で決める

よくある質問

熱量の高い顧客はどうやって見分けますか

既存の取引先が対象なら、閲覧量の多さではなく平常時とのズレで見ます。いつもと違うページ、いつもと違う人、いつもと違う頻度、いつもと違う期間の4つを拾い、契約していない製品の閲覧が重なった取引先から当たるのが基本です。

既存顧客の行動データは、新規リードと同じ基準で見てよいですか

同じ基準では機能しません。既存顧客は業務でログインするため、絶対値の高さが日常の利用量を反映してしまいます。取引先ごとにベースラインを持ち、差分で判定する形に変えてください。

会員の閲覧履歴を分析するにはMAツールが必要ですか

必須ではありません。会員IDと閲覧ログが紐づいた形で出力できれば、表計算ソフトでも月次の突き合わせは始められます。手作業が回らなくなった段階で、通知やセグメントの機能を持つ基盤を検討する順序で構いません。

閲覧データを見ていることを顧客に伝える必要はありますか

利用目的の公表は必要です。会員規約やプライバシーポリシーへの記載で対応するのが一般的な運用です。一方、個別の営業活動で閲覧履歴に言及するかどうかは別の話で、伝え方によっては関係を損ないます。

まとめ|まず1社、ベースラインを引くところから

全取引先を一度に扱おうとすると、設計だけで止まります。売上上位の5社に絞り、平常時の使い方を記録するところから始めてください。ズレが出た月に何が起きていたかを担当営業に確認すれば、自社に効く検知条件が言語化できます。

要点を整理します。

  1. 既存顧客の熱量は、閲覧量ではなく平常時とのズレに表れる
  2. 追加提案の余地を示すのは、未契約カテゴリ・上位グレード・新しい担当者・条件面の資料の4パターン
  3. 契約データと閲覧データを突き合わせ、「契約なし × 閲覧あり」を抽出する
  4. 通知は担当営業がまだ知らないことに絞り、結果を戻して条件を直す

熱量の高い顧客は、新しく探しに行く前に、すでに取引のある会員の中にいます。

toviraのカスタマーポータルは、取引先ごとの閲覧・ダウンロード・視聴を実名で記録し、条件に達した時点で担当者へ通知します。自社の会員データで何が見えるかは、実際の画面でご確認ください。デモを依頼する

出典

編集者:

中川 晃次

再生ファンド傘下の複数企業にて、マーケティングディレクターとして事業再生を牽引。戦略立案から実行まで一貫して手がけ、ECサイトにおいては売上前年比150%成長を5年連続で達成した実績を持つ。現在はマーケティングSaaS「tovira」の開発に加え、BtoB領域のマーケティングコンサルティングを通じて、企業の持続的な成長を支援している。

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